第3話  戸尾鐘村

「都がこの地にあった頃ですから、ずいぶんと昔の話です」


 神主さんが、話してくれた。


 昔、ある地方から都のあったこの地に、訪ねてきた者がいた。戸尾鐘村とおがねむらの農夫だと名乗ったその男は、おどおどしながら話し出した。。


 戸尾鐘村では、猫又があられて、人を襲っているので、困っているということだった。

 都には、人も多く、猫又を退治してくれる人がいるに違いないと、訪ねてきたらしい。


 話を聞いた役人は、さっそく猫又退治をしてくれる者を募り、戸尾鐘村に向かわせた。


 猫又退治には、二人が、手を挙げた。


 ひとりは、坊主で、お経を唱えれば、そんな化け物は、すぐに退治出来ると豪語した。


 もうひとりは、武士で、大きな刀と、長い槍を身につけた、桐の宮高駒きりのみやたかこまという、有名な豪傑だった。


 同行する者は、見届け人として、神職の中から選ばれた。

 神職の者は、護身用として、弓矢と小さな刀を身につけていた。


 月宮姫菜つきみやひめなと名乗るその娘は、とても美しく、月宮家のひとり娘で、神社を離れられない父親の代行という立場で、同行していた。


 姫菜には、身の回りの世話をする女性が、もうひとりついていた。姫菜からのぞみと呼ばれているその娘は、旅の間、甲斐甲斐しく働き、一行の食事を一手に引き受けた。


 途中、山賊に襲われた。


「猫又退治をされる御身に、怪我でもされれば、見届け役の私が困ります。ここは、私が、引き受けましょう」


 そう言うと、十人の山賊をたったひとりで、あっという間に、立てなくしてしまった。


 娘は、父親に厳しく武道を仕込まれていたのだ。


 それを見た武士も坊主も、娘には、一目置くようになった。


 望は、家族を猫又に食われて気力をなくしている農夫をきめ細かく気遣い、徐々に元気を取り戻させた。


 村に到着すると、農夫が、村を出てから、五人が犠牲になったと、村長から話を聞いた。


 元は、裕福な村だったが、働き手が、少なくなり、徐々に苦しくなってきている。

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