第2話  神主様

 県庁所在地にしては、人通りの少ない駅を降りる。走れば五分で帰る事の出来る、僕の住むマンションを通り過ぎる。さらにゆっくり五分歩いて右に曲がる。坂道になっているので、下る方向だ。


 石造りの小さな鳥居と、僅かな砂利道。その奥に、控えめな社がある。

 庭は、いつも綺麗に掃き清められ、手水の柄杓は、乱れる事が無い。


 この地に住みだした当初、何の神様かは、分からなかったが、僕の初詣は、いつもこの神社だった。


 有名な神社は、近隣の府県からの参拝者で、長い行列が出来る。残念ながら、僕には耐えられない。とても雰囲気の良いところなので、真夏に避暑を兼ねて、神様に挨拶に行くくらいだ。


 ご近所の控えめな社の周囲に、とても小さな社がいくつかあるが、そのうちのひとつが、猫の神様という事を最近知った。


 獣医さんの待合室で、他の猫の飼い主さんに教えてもらったのだ。


 それ以来、会社帰りに必ず手を合わせて、飼い猫の健康と、長寿を祈る。


 あまりにも毎日来るものだから、ある日、神主さんに呼び止められた。


「熱心ですね。毎日来られている様子なので、きっと神様は、願いを聞き届けてくれますよ」


「僕の飼い猫が、健康で長生きして、出来れば、猫又になって、いつまで僕のそばにいてほしいと願っています」


「猫又ですか?またそれは…。確かに猫又になれば、人より長生きでしょうね」


 袴と白い服が、可笑しそうに笑った。


「知っていましたか?この社の猫又伝説。何故この場所が、猫の神社と言われている理由についてですが…」

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