第8話 異世界のような国
翌朝。
窓から差し込む光でソフィアは目を覚ました。ふと窓の方に目を向けるとマリが遮光カーテンをまとめている。
「おはよう。」
「おはようございます。お加減はどうですか。」
「ええ、問題はないわ。船といってもこれだけ大きければ、揺れもほとんどないみたいだしね。」
かすかな揺れで船上であることを感じる程度の揺れしかない船内での時間は、元来乗り物に強かったソフィアやマリには特に陸上とは変わらないものだった。しかし、以外だったのが護衛騎士であるエドワードが表情には出さないものの顔色を青くしていたことだった。
ソフィアは、マリに支度を整えてもらう。帝国風のドレスに身を包み、髪を顔周りをすっきりさせるようにハーフアップにする。
朝食の会場に向かう間にマリから今日の予定を聞き、ソフィアはその日の流れを軽く頭の中で組み立てる。
(今日はほとんど皇国の話を聞くことになるのね。まぁ、ちょうどいいわ。)
ソフィアは、皇国風の朝食をすませ、すぐに部屋に引き上げる。悪意に満ちた空間に好き好んで長居する人間はそう多くはないだろう。少なくともソフィアは長居したくはないと思う側の人間だ。
ソフィア達が部屋に着きソファに腰を下ろすと、見ていたように扉をたたく音が聞こえる。
「皇女殿下、リシャにございます。」
「はい。入って。」
「失礼いたします。」
すると、扉がゆっくりと開き昨日と同じデザインの神官服に身を包んだリシャが入ってくる。
「おはようございます。皇女殿下、ご予定の通り今から皇国のことについてお話をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」
「ええ、お願いするわ。そちらの椅子に掛けて。」
「はい、失礼いたします。」
リシャはソフィアの言葉を聞いて、椅子に座るといくつかの書物を机の上に並べる。装丁を見るに、皇国の物のようだ。
「こちらから皇国史兼神皇陛下の歴史、皇国固有の動植物図鑑、皇国の地理兼各領地関係です。あとこちらは必要ないとは思いますが……皇国皇族のマナー教本です。」
「ありがとう。一応、マナーについての本も含めてお話をお願いするわ。」
「はい。こちらをすべて網羅するには最低でも3か月は必要な内容ですので、今回は基本的なことを掻い摘んでお話させていただきます。」
「わかったわ。」
机の上に置かれた書物は、枕にでもなりそうなほどの分厚さで、ソフィアがページをめくると小さな皇国文字と小さな図解がびっしりと書かれた本であった。リシャの最低3か月は必要というのも、缶詰で食事と寝る時間以外の時間を当てた場合だろう。
ソフィアは、ある程度の知識は事前に学んでいるため、これからの時間はその知識と皇国側の常識の乖離がないかの確認の時間になる。
「それではまずは皇国史の本から説明いたします。」
そういうとリシャは皇国の成り立ちについて話始める。
皇国は神の末裔である神皇の神聖な力によって治められている。その神皇は、まだ人間が誕生するずっと前、神々が暮らすリノアラン(神々の地)で暮らす女神の一人が祖先であるとされている。その女神は人間が暮らす土地を作り、人間が生まれ増える様を観察していた。
しかし、その人間たちは徐々に女神への感謝を忘れ、土地をわが物のように好き勝手にし始め、その状況を憂いた女神が息子の一人をこの土地に遣わした。その女神の息子リュミエールが降臨した国こそ神聖リュシオル皇国なのである。
リュミエールは、自分の降臨した土地とその神力が影響を及ぼす列島を自身の直轄国とすることを決め自身の母である女神リュシオールの名をとり神聖リュシオル皇国とした。そして自身は、神皇となのり人間の妻を娶った。その血を継ぐ者たちが女神リュシオールの神託を受け神皇になっていく。
もうその当時の書物も残っていないような時代の話のため、女神の血を受け継ぐとされる一族も普通の人間とそう変わらないが、特徴として神力と呼ばれる不思議な力を持ち、金色の瞳と髪を持つ。その中から特に女神の神託が下った時期に特に特徴を色濃く受けているものが年齢に関係なく次期神皇の候補とされる。そうして代々神皇は選ばれ、受け継がれてきた。
そうして選ばれた神皇の下、大きな内戦もなく平和に治められ現代まで続いているのである。
今代の神皇は、初代神皇リュミエールの姿絵と瓜二つであり、輝くような金髪と金眼に初代以来ともいえるほどの神力を持った神皇である。そして、ここ数代は現れることのなかった神痕を携えた神皇であるとされている。
「以上が大まかな皇国の成り立ちと歴史です。細々としたことは起こりましたが特に大きな戦乱もなく国としては大変安定していたようです。ただ、100年程前の大火によってそれ以前の歴史書がすべて焼失してしまったようで詳しいことはわかりません。」
「ありがとう。」
一通り話を聞いて、大体の部分についてはすでに知っていることだった。だが、ソフィアは少し気になることがあった。
(自然に‘‘すべて‘‘焼失するなんてことがあり得るのかしら。100年前とはいえきな臭いわね。)
その後も地理や領地についてなどの話を聞いた。図鑑に関してはソフィアが読みながら質問をするという形式となった。
(同じ世界の国とは思えないほど独特な国だわ。異世界に嫁ぐと思った方が容易いかもしれない。)
地理についても特に事前に学んでいたこととの乖離はなく、皇国が三つの島からなっており、一番小さい島が神降臨の地であり神皇が暮らす『第1の国』そして、2番目に大きな島が軍事を司る『第2の国』、そして一番大きな島が食物の一大生産地である『第3の国』になっており、一番小さな第1の国以外の島は、いくつかの家によって領地が分けられ運営されているということだった。
図鑑では、皇国の書物にしか載っていないものもあり、ソフィアは思わず目を輝かせる。マナーの教本は、いわずもがなすでに知っている内容の物で、ソフィアは自分の知識に間違いがないということを確認できた。
ソフィアが昼食を取る暇を惜しんで軽食で済ませたため、予定より早く話が終わった。ソフィア自身興味深く夢中になっていたため話を聞いている間は、疲れを感じず聞いていたが終わると一気に疲れを感じ、ソフィアは瞬きよりも少し長めに目を閉じる。
マリがその様子に気付き声をかける。
「それでは、もうそろそろお時間にございます。」
「ええ、もう予定も終わりましたのでお暇させていただきます。」
リシャも空気を読み退室する。
「はぁ、本当に面白い国に嫁ぐのね。私は。」
「まことに。」
ためらわずそう答えるマリにソフィアが笑いを漏らす。
その後の夕食は、マリの提案で自室でとることになった。ソフィアは、内心助かったと思い、この船内で初めて悪意に晒されず食事をとった。そして、寝る準備を終え、さっさと床につく。そうして船上の一日は過ぎた
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