第6話 対面

屋敷の使用人の案内について、しばらく歩くと大きな扉の前に到着する。


「殿下、こちらで使者の方たちがお待ちです。」

「ありがとう。」


ゆっくりと扉が開かれる。部屋の中には、この屋敷の持ち主であるポールハウン卿とおそらく皇国の使者だと思われる白い服の男女がいる。


「ふむ、そちらがソフィア殿ですかな。」


ソフィアが部屋に入るやいなや若い男の使者が挨拶もせず口を開く。

その尊大な態度にその部屋にいる帝国側の人間は眉を顰める。

マリやエドワードは、わかりやすく態度には出していないが雰囲気が鋭くなる。しかし、ポールハウン卿に至っては、わかりやすく憤慨した表情をしている。


ソフィアが苦言を呈さないため、なんとか抑えているようではあるが、我慢ならないという表情で使者をにらんでいる。


ソフィアは、はぁと軽く息を吐くと静かに使者の方を見やる。


「そうですわ。皇国の方たちは他国との関りが少ないから知らないのかもしれませんが、使者であるあなた方よりも皇女である私の方が世界的に見ても立場は上だわ。それなりの礼儀はあっても良いのではなくて。その程度の立ち居振る舞いも知らないというなら、皇国から出ないことをお勧めするわ。」


ソフィアがチクリと忠告をすると、使者たちが驚きと羞恥で黙る。

この使者の対応を他の国に対しても行えば、皇国がいくら古くから尊敬を集める国であったとしても、評判が落ち反感を抱く国をいたずらに増やすことになるだろう。

何も言えず、押し黙る使者たちをソフィアは冷たく見つめる。しばらく、沈黙が部屋を満たしていたが、やっとという様子で女の使者が口を開いた。


「皇女殿下、我が国の無礼、大変失礼いたしました。こちらの教育不足でございました。どのような処分も受け入れる所存でございます。」


女の使者の方は、状況を読む力はあるようだ。使者からの謝罪を聞いたソフィアは、その声音に幾分かの高飛車な様子を感じ取りながらもこれから嫁ぐ身としてはここらが折れ時だと判断し、静かにうなずく。


「そう。これが最後だと思いなさい。それと、そちらのものは二度と私の前に出さないでちょうだい。この程度のことを指摘されるなんて程度の低いことは二度とないようにね。」


その言葉に男の使者は屈辱だというように顔を顰め、それを隠すように頭を下げる。

女の使者は、何を考えているのかわからない顔をしている。


「承知いたしました。寛大な処置ありがとうございます。」


女の使者が無表情でそういうと、男の使者は退室させられ、やっと皆が席に着く。


「皇女殿下、先ほどは大変失礼いたしました。」

席に着くやいなや、使者が頭を下げる。ソフィアは軽く手を振り、もういいと示した。

「もういいわ。それよりあなたの名前は?」

「はい。私は皇女殿下の案内役を仰せつかりました宮廷神官リシャ・ファリネスと申します。」

リシャは胸の前で軽く指を絡ませる皇国式の礼をとりながら自己紹介をした。


「ではリシャ、これからの日程の説明をお願い。」

「かしこまりました。」


ソフィアがリシャにそう伝えると、リシャは順を追ってこれからのことを説明し始めた。


まずはこの後、港に泊めてある皇国の船に乗り丸二日揺られると神皇宮のある神聖リュシオル皇国第1の国の港に到着し、そこから半日かけ神皇宮に向かうとのことだった。神皇宮に到着したらまずは身を清め、神皇の祖先である女神リュシオールの洗礼を受け、その後神皇への目通りが叶ようだ。


ソフィアは、いくら政略結婚とはいえ夫となる人と会うだけでも面倒なものね、と白けながら説明を聞いていた。


ソフィアが白けるような手順でも、皇国にとっては大事な伝統なのだ。そんな国に嫁ぐのであれば、そんな伝統を鼻で笑わず馴染んでいかなければならない。


先進的で、伝統も大事にするがそれよりも合理性や効率を重要視する帝国で育ったソフィアが馴染むには苦労はするだろうが、それはこの結婚が決まったころからわかっていたことであったため、ソフィアは皇国について書かれている数少ない文献で学んできている。


理解しがたいとはいえ、それをほおって嫁ぐほどソフィアは脳内お花畑なお姫様ではない。


「以上がこれからの大まかな日程となります。道中に皇国の歴史などについてのお話をさせていただこうかと考えておりますが構わないでしょうか。もし、お望みの場合は到着後お時間を設けますが……。」


リシャがそういうと、ソフィアは一瞬考えを巡らせる。


「わかったわ。それなら道中に皇国のことについて説明をお願い。」

「かしこまりました。では、皇女殿下のご準備ができ次第出発いたしますので、ご準備がととのいましたら、私にお声がけください。」


決して穏やかとは言えない皇国側の人間との初対面は終了した。

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