第54話 ミソスープ製造魔道具
ミソスープ製造魔道具を作るには、まずその構造を考えなくてはならない。
「アカツキさん、何か紙あります?」
「あ、これでいいですか」
アカツキが持ってきてくれた50㎝四方程の紙に、必要な構造を描いていく。後々、これを見せてアカツキに
ミソスープを作るにはまずミソの実からミソを作る工程と、コンブとカツオブシからダシを作る工程の2つが必要だ。他の料理でも使う可能性を考えると、それぞれ別の魔道具で作った方がいいかもしれない。
ミソを作る魔道具はミソの実の投入口と水の投入口、塩の投入口を付けたタンク状のものにした。ミソの実と水、塩は自動的に計量されてタンクに入る。タンクには加熱用の魔法陣を描き、指定の温度時間で加熱する。加熱後は自然に放熱し、タンク上部の蓋を開けて取り出せるようになる。
「ミソを作るのはこの魔道具で大丈夫そうだな」
「ふへぇ、なんか凄いですねぇ」
「この構造のものを水晶で創り出せますか? 魔法陣は僕が後から付け足すので」
「意外と簡単な構造ですからね。お任せください!」
アルが描いた構造をじっと見つめたアカツキが、にこりと笑って請け負ってくれた。このくらいなら何の問題もないようだ。
水晶のところに行って手を
「創るの早いですね」
「伊達に長い間ダンジョンで色んなもの創り出しているわけじゃないんですよ!」
誇らしげに胸を張るアカツキに微笑み頷きながらタンクのチェックをする。魔法陣をつけたら十分稼働しそうなので、手持ちの魔軽銀プレートに魔法陣を描いた。その魔軽銀プレートはタンクの外面につける。
「アカツキさんって、魔力を魔法陣に注ぐことは出来るんですよね?」
「……言い忘れていましたが、俺は一切魔力を使えないです。水晶を通して外部魔力を使うことしかしたことなかったので」
「え……」
「……うぅ」
項垂れるアカツキを見て、アルは少し反省した。アカツキは魔力は持っているようだが、それを使うことをしたことがなかったらしい。過去を覚えていないのだから、そういった技術も知らないと考えるべきだった。
アルは無言で魔法陣の動力源に魔石を指定した。
「魔石は創れますよね?」
「もちろんです! ほら、アルさんに渡した宝箱の魔石も俺が創ったんですよ!」
アカツキが水晶に触れると、じゃらじゃらと魔石がテーブルに積み重なっていった。
「じゃあ、これをセットしますね」
「おお、そこにはめればいいんですね!」
アルの後ろから覗き込んできたアカツキが、何かにメモをしながら頷いている。今セットした魔石が使い終われば、アカツキが新たな魔石をセットしなけらばならないので、きちんと説明しながら作業しないといけないのだと、アルも改めて思った。
「ここを押すと、魔石から魔法陣へと魔力が流れてこの魔道具が作動します。材料は予めこの投入口に入れておけば、自動的に計量されてタンクに入ります」
「なるほど……」
「ミソが出来上がったら、上部のここが光るので、これを合図に取り出してください」
「分かりました!」
しっかりメモを取ってアカツキが満面の笑みを浮かべる。漸く自分でミソスープを用意できると実感がわいてきたようだ。
「出来上がったミソは冷蔵保存するか時間停止のアイテムバッグに入れておかないと長期保存できないんですけど」
「うーん、あれか、氷室をつくればいいってことですね」
「え?」
アルがアカツキの言葉に戸惑っている間に、アカツキは水晶に手で触れて何事かを呟いていた。
暫くすると、この部屋の奥の壁に銀色の扉が現れる。
「この扉の向こうを、氷の空間にしてみました!」
「――なるほど」
アルがその扉を開けてみると、2m四方ほどの空間が氷で囲まれていた。小さな別空間をダンジョン機能で創ったようだ。ダンジョンマスターはすることの規模が普通と違う。冷蔵魔道具を作ろうかという考えを、アルはポイっと捨て去った。
「冷蔵には問題がないようなので、次はダシ作りの魔道具ですね」
「よろしくお願いします!」
にぱっと笑ったアカツキが新たな紙を差し出してくる。なかなか察しが良くて、アルも作業がしやすい。
『下僕根性のありそうなやつだな』
「こら、ブラン、そんなこと言わないの」
「なんかディスられた気がするっす!」
「気にしないでください」
ブランの言葉はアカツキには通じていないようだが、何となくの雰囲気は伝わってしまったようだ。アルは笑顔で誤魔化した。
「ダシの製造は、コンブとカツオブシと水の投入で、ミソと似たようなもので良さそうだな……」
呟きながらダシ製造の魔道具の構造を紙に描く。カツオブシは投入時に削るような構造にして、加熱の温度に気を付けたら良さそうだ。コンブとカツオブシが時間差で投入され、アク取りまで出来るようにする。
「この構造でお願いします」
「ふむふむ……。分かりました!」
構造を凝視したアカツキがそれを持ったまま水晶に触れる。見たままを創り上げるつもりのようだ。アルは出来上がるのを待つ間に、魔軽銀プレートに魔法陣を描いた。今度は最初から魔石をはめる場所を作るのを忘れない。
「これでどうですか!」
「――いいですね」
いつの間にか出来上がっていたものを渡されて、アルは細部までチェックした。大丈夫そうだったので、これも外面に魔法陣のプレートを取り付ける。魔石をセットして完成だ。
「これも、コンブとカツオブシと水を投入して、ここを押したら、魔法陣に魔力が流れて、自動的に材料を計量してダシを作ってくれます。ここが光ったら出来上がりです。コンブとカツオブシはここのつまみで分量を調節できます。今のところは僕が使っている分量になってますので。ここのレバーを押すと、少しずつダシが出てきますので、ここに容器を置いておいてください」
「すげぇ、出汁も好みで分量を変えられるんですね!」
「はい、好みの味を追求できますよ」
「ありがとうございます!」
にこにこ笑ったアカツキが、出来上がった魔道具を満足げに見比べている。それを見つつ、アルは首を傾げた。
「これが出来ていれば、ミソスープは自分で作れますか」
「……やってみます」
急に緊張した面持ちになるアカツキに、アルはとりあえず手持ちの材料を渡した。
アカツキは慎重な手つきでミソの実やコンブ、カツオブシ、水を魔道具にセットして、魔道具のスイッチを入れる。暫し待った後に、まずはダシが出来上がった。それを器に入れたアカツキは、1口舐めてほんわりと顔を緩める。満足な出来だったようだ。ミソも出来上がったので、アカツキがそれをスプーンですくいダシに溶かした。
「――美味しい! 美味しいですよ!」
「それはよかったです」
アルとしては、一切具のないスープにちょっと思うところはあるが、本人が満足しているならばいいだろうと、満足げなアカツキを黙って見守った。
「じゃあ、コメを炊く魔道具もあるといいですね」
「炊飯器ですね!」
「スイハンキ?」
「えぇっと、俺が過去いたところでそんなのがあったような?」
「……料理に関しては、少しずつ思い出せるんですねぇ」
「全然、活用できないですけどね!」
投げやりに言うアカツキに笑って、そのスイハンキというものの構造を聞いてみた。
「炊飯器の構造? そんなの知るわけないじゃないですか!」
聞いたところでなんの役にも立たなかったけれど。アルなりにコメを効率的に炊く魔道具を作れば良いのだと納得しておいた。
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