第29話 ショウユを作ろう
今日はショウユ作りをすることにした。ブランは小屋の中でブランケットに包まって昼寝をするそうなので放っておく。どうせブランは見ているだけになるし。魔の森で狩りをしてきてくれてもいいんだが、それだと解体も面倒だし、放っておくのが一番だ。
用意するのはショウユの実と塩と水。これだけだ。
「まずは鍋にショウユの実を入れて―――」
なんとなく1人だと独り言を言ってしまう。ブランがいたらお喋りも楽しめるのに。
鍋にショウユの実の倍量の水を入れ、一握りの塩を入れる。この作り方はすべて鑑定によって知ったものだ。これを後は煮込んで濾したらいいらしい。
熱している間は放置すればいいので次に何をしようか考えた。
「……よし、もっと小屋の生活環境を良くしよう」
思いの外、生活で使うようになったので、いつでも転移で帰ってきて使えるようにしようと決めた。
まずはベッド。今は厚手の毛皮の上に毛布に包まって寝ているが、普通のベッドを設えてみると快適になるだろう。
小屋を作ったときに余った木材を組み合わせてベッドの土台を作る。そこに森から集めてきた背の高い藁っぽい草を魔法で乾燥させて載せる。魔法で草を焼け切ってしまわなくて良かった。白銀の剣を持ってから、過剰な魔力が放出されず、魔力制御が容易になった気がする。草を敷き詰めた上には大きな布を掛ける。しっかり草を包み込むようにしてベッドは完成だ。寝転んでみると柔らかに体を包み込んで、なかなか心地よい。
物音を立てているのに熟睡しているブランを見て起き上がり、そっと抱き上げた。ベッドに寝かせるとごろりと寝返りを打つ。起きないので寝心地は悪くないのだろう。その体にブランケットをかけてやり、再び作業に戻った。
外に出て、森から粘土質な土を集めてくる。それを成形して魔法で焼いてレンガを作った。並び重ねて作るのは石窯だ。鉄板や網を載せるための竈もつくった。森から採ってきた木も薪用に切り、近くに積んでおく。
外での食事用のテーブルセットも作った。ブランには座面が高い椅子を作り、使いやすくするのは忘れない。毎回テーブルに乗られるのはちょっとマナー的に気になるから。
「おー、なんか生活する場所になったかも」
作ってみると一気に生活感が増した空間になった。どれだけここで生活するかは分からないが、なかなか落ち着ける空間だ。
そろそろ日も落ちてくる時間になったので夕飯を作り始める。まずは煮込んでいたショウユを濾して空き瓶に注ぐ。ぺろりと舐めてみたが、屋台で食べたものとは全然違った。これに色んなものを足してあの味は作られていたのだろう。
「うーん、やっぱり蜂蜜?でも、今手持ちに無いしなぁ。糖蜜花はちょっと勿体ない気がするし……砂糖でいっか」
鍋にショウユと白ワイン、砂糖を加える。甘味が足りない気がしたのですりおろしたアプルの実も入れた。加熱して温め、味見をすると、屋台で食べたものとはまた違った味わいがあって美味しかった。
「肉は……角兎でいいかな」
たくさんある角兎を捌いてたくさん用意する。どうせブランが食べきるし、催促される前に用意しておいた。
「肉は漬け込むか、焼いてから塗るか……。うん焼いてから塗って、また焼こう」
作ったばかりの竈に網を載せ、火を起こして肉を並べる。厚切りの肉なのでよく中まで火が通るように、火は弱めにしてじっくり焼いた。
火が通るまでの間にスープを作る。ニンジン、オニオン、ベーコンをみじん切りにして、浅めの鉄鍋でじっくり炒める。そこに塩とハーブを入れ混ぜ合わせた後、攪拌の魔道具に入れペースト状にする。今日使う分だけ残して後はアイテムバッグに仕舞った。残した分は鍋に入れ、水と白ワインを加えて、そこに大きめに切ったイモとニンジン、オニオンを入れて煮込んで完成。肉がないとブランが怒りそうだから、余っていた角兎の肉も細かく切って炒めた後スープに入れた。
網で焼いていた角兎肉にも火が通ったようなので、ショウユダレにつけて再び網の上で軽く焼く。香ばしい匂いが広がった。
『む。肉を焼いておるのか』
匂いに気付いて小屋から出てきたブランが尻尾を振って網の上の肉を見ていた。鼻をクンクンとさせ、首を傾げている。
『あのショウユダレとはまたちょっと違う匂いがするな』
「うん。さすがに屋台のおじさんのレシピは分からないから、僕のオリジナルだよ」
『そうか。旨そうだ』
涎を垂らしそうになっているブランをテーブルセットに追いやる。どうせ手伝わないのだから座って待っていて欲しい。
温めたスープを深皿に注いでテーブルに置く。肉も焼けたようなので、ブランの方に大量に肉を盛り、テーブルに置いた。今日はパンを焼く時間がなかったから作り置きのパンも置く。どうせブランは食べないだろうから、アルの分だけ用意した。
『お?旨いな!ちょっと焦げた感じがまた良いアクセントになって旨い。ちょっと果物みたいな甘味があるな』
「あ、わかった?蜂蜜の代わりに砂糖を使ったんだけど、それじゃちょっと味が足りない気がして、アプルのすりおろしも入れたんだよ」
『おお、アプルか!確かに良い甘味があるな』
「美味しいね。角兎が淡白な肉だから、余計にこのタレの美味しさが分かる。ショウユって色んな料理に使えそうだな」
『そうだな。森で見つけたら追加で採っておこう』
2人で味わいあっという間に食べ終わった。毎回思うが、ブランはアルの何倍もの量を食べているのに、食べ終わるのが同じというのはどういうことなのだろう。ちゃんと噛んでいないのではないだろうか。ブランの体は変化で縮まっていて、食べた分がどこに消えているのかも分からない。もしかして、ブランの胃は大腐蛇みたいに無限収納になっているのだろうか。アイテムバッグにしたらさぞかし価値のあるものになるだろう。絶対にしないけど。
『旨かった。……そういえば、いつの間にか生活環境が整ったようだな』
「うん、ちょっと頑張った」
辺りを見回して言うブランにちょっと胸を張って答えた。テーブルセットを作って竈とかも準備した。小屋の中にはベッドもある。十分頑張ったと言えるだろう。
『うむ。あのベッドの寝心地も良かったぞ』
「こっそりのせても気づかないくらい熟睡していたもんね」
『……まぁな』
油断しすぎていたのは自覚していたのだろう。ブランは視線を逸らして曖昧に頷いた。アルといるときのブランは野生の本能を放棄しすぎだと思う。……まあ、棲み処の森にいた時もほとんど寝ていたようなので、ブランを害する存在がいないところではいつもそうだったのかもしれないが。
「明日は森の探索して、色々探す?」
今日は魔の森産の果物とかも調べたし、魔の森では常に薬草を採れることが分かった。森を探索して色々採取してみるのも楽しいだろう。
『転移箱は作らなくていいのか?レイが頼んでいただろう』
「あ……」
『忘れていたのか』
ブランに呆れられて今度はアルが視線を逸らした。完全に忘れていた。そういえば、詳しい発注情報をもらったかも危うい。あの時は予想外の情報の連続で疲れていたから、色々と必要なことを聞き逃している気がする。
「……まあ、期限も決まってないし」
『次にレイに会ったときには用意していた方が面倒がないんじゃないか』
「……そうします」
真っ当なことをブランに言われて、何も反論できなくて頷くしかなかった。とりあえず今日のうちに転移箱を使ってレイに連絡を取っておこう。転移箱の必要個数とか期限とかを確認しておかないといけない。レイに転移箱を渡していたままで助かった。
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