第27話 面倒な話
「グリンデル国はマギ国から、人を燃料にするというその技術を手に入れていたみたいだ。帝国と戦争になる前は、あの2国は仲が良かったからな」
「……グリンデル国はその技術を使って何をしようとしているんですかね」
「さてな。マギ国から魔砲弾兵器も仕入れてるのかもしれんし、全く別の魔道具に使おうとしてるのかもしれん。そこまではまだ掴んでない」
グリンデル国はマギ国と違って魔道具の製作技術はレベルが低い。マギ国から何かしらの魔道具を仕入れていたと考えるのが妥当だろう。
「……それで、僕なのか」
「そうだな。人を燃料にするにしても、その人が持つ魔力は多ければ多いほど効率が良い。大きな魔力を持つお前は燃料に最適だとグリンデル国は考えたんだろう。だから、お前を捕まえようとしている」
「……うわぁ、僕グリンデル国のこと嫌いだったんですけど、更に駄目になりました。もう嫌悪しかないです」
「気持ちは分かる」
レイが苦笑してアルに同意した。
「王女がお前と婚約破棄したのも、王女の婚約者で公爵子息である者を燃料にするのは難しいからだろうな。都合良くお前が放逐されれば、そのまま捕まえて燃料にして死んだところで誰も気づかない。グリンデルの王族は、まだその技術をほとんどの貴族たちにも公表してないし、秘密裏にしたいんだろう」
「……さっさと出てきた僕の判断正しかったんですねぇ」
『それで執念深く追っていたわけか』
「そうだな。今は色んなところから奴隷を集めて賄おうとしているようだが、それでもお前を追うってことは全然足りてないんだろう。うちの国から連れてかれてる奴隷もいるみてぇだがな」
「……そういえば、僕もノース国から違法に連れてこられた奴隷を見ましたね。あれはもしかして」
「燃料用かもしれんな。なかなか違法の奴隷商を捕まえるのは上手くいかないんだ」
思いもよらない事実にぐったりしていたら、ふと気になったことがあった。
「あれ?マギ国は戦争でその魔砲弾兵器を使わなかったんですか」
「使ってねぇな。帝国は開戦後真っ先に実験で使われたその兵器を破壊して、人を燃料にする装置も壊したらしい。まあ、知識自体は国が持ってるから新たに作ろうと思えばできるんだろうが、今は戦争で余裕もないしな」
「……帝国は事前に情報を得ていたということですか」
「そう考えるのが妥当だな。魔砲弾兵器はかなり大きくて、実験場所近くに置かれたままだったらしい。それが開戦の合図と同時に消し飛ばされた」
「じゃあ、開戦より先に帝国はマギ国に侵入していたんですね」
「そうだな。まあ、その実験場所自体、かなり帝国に近い場所で行われて、更地になったところには帝国の領土も少し含まれていたわけだが」
「え?それは帝国が攻めこむのも当然じゃないですか」
「ああ、そうだな。まあ、帝国が何を考えてマギ国に攻めこんだかは正確なところは分からないが」
レイと顔を見合わせて同時にため息をついた。兵器とか世界情勢とか、本当に面倒臭い。
「……何の話をしたかったんでしたっけ」
「……うちの国の勧誘の話だな」
「……めっちゃ話ずれましたね」
「ああ……。俺も色んな事情を隠してるのが嫌でなぁ。隠し事って嫌いなんだよ。それに、ほら、お前に関する情報をちゃんと教えてないと、お前も勧誘について判断しにくいだろ?」
「まあ、そうなんですけど。今さらですが、こんなに僕に話して良かったんですか」
ノース国が集めた情報を、国に関係ないアルに話すのはちゃんと許可を得てのものなのか不思議だ。
レイは軽く視線を逸らした。その反応は、絶対了解を得てないやつだ。
「……まあ、誰かに吹聴するような話ではないですし、僕もあまりややこしいことに関わりたくないので誰にも話しませんけど」
「そうしてくれ」
「レイさんの予想通り、勧誘はお断りさせてください」
「一応言うと、ノース国に保護を望めるかもしれないぞ?」
「僕、国っていうのをそこまで信用してないんですよね」
「……まあ、分かるけどな。所詮人の集合体だし、どういう方向に舵を切るかも分からねぇしな」
保護を求めても、国が永続的に味方である保証なんてないのだ。ならば身一つである方が、いざというときになんとでもなる。
『面倒な話は終わったのか?』
「……ブラン、何食べてるの」
『これか?果物が入ったケーキだな』
「……僕らの分まで食べてるんじゃないよ」
『早い者勝ちだ』
「ん?狐君甘いもの好きなのか。追加で持ってきてやろうか?」
『お?もってこい!』
いつの間にか3人分のケーキを食べていたブランに脱力する。ブランはアルの様子なんて気にとめずレイの言葉に尻尾振って答えていた。それでブランが言いたいことを理解したレイが笑って立ち上がり、注文に行ってくれる。
「ブラン、ちゃんと話聞いてた?」
『聞いてたぞ。愚かな話だな。だが、アルはグリンデル国に捕まるつもりはないし、戦争に関わるつもりもないんだろう?もう関係のない者の思惑なんて考えたところで何になる』
「……そうだけどさ。あの王女が僕を追い続ける限り、どこかで関わるかもしれないから、覚えておくべきでしょう?」
『ふむ。まあ、頭の片隅に置いておくくらいでいいのではないか?そんなつまらんことに時間を割くのは、ただでさえ短い生を無駄に費やすようなものだ。世の中には楽しいことがたくさんあるのだぞ?それを楽しまんでどうするのだ』
ケーキの最後の1口を手で掲げてアルに見せ、ブランが尻尾をご機嫌に振りながらそれを味わって食べた。その幸せそうな様子を見ていると、面倒な事情を聞いて重くなっていた気持ちが少し浮上する。
「だからって、僕らの分までブランが食べるのは酷くない?」
『グチグチ言うな。レイが追加で持ってくると言っただろう』
「もう。レイさんの優しさに甘えないでよ」
レイは優しい。マギ国やグリンデル国の内情等のノース国が探し得た情報は、本来アルに話す必要がなく、むしろ話してはいけない情報だったはずだ。それでもレイはアルに全て話した。知らないことがアルにとって危険に繋がるかもしれないから、と。知っていることを隠しているのが嫌だったというだけではないはずだ。
「よっと、……辛うじて、3人分残ってたぞ」
帰ってきたレイが笑ってケーキの皿をアルとブラン、自分の前へと置く。
「ありがとうございます」
『おお。これはちょっとさっきのと果物が違うな?これも旨い』
「狐君が喜んでるみたいで良かったよ。アルも食べろ。ここはデザートまで美味しいって評判なんだ」
出されてすぐかぶりつくブランにアルは呆れたが、レイは寛容に笑って自身のケーキにフォークをいれる。アルも1口食べてみたが、ブランが絶賛するのも分かる美味しさだった。しっとりとした果物のパウンドケーキのようだ。
「美味しいですね」
「この果物はモンモだな。魔の森でとれるから、探してみるといい。浅いところのはすぐに他に採られてしまうが、ちょっと奥に入ればわりとあるはずだ」
「そうなんですね。探してみます」
しばしケーキを楽しみ、そろそろ帰ろうかなと思い始めたところで、レイがアッと声を漏らした。
「忘れてた」
「どうしました?」
「俺の用件、勧誘だけじゃなかったわ。あの、お前が作ったっていう転移箱、うちに売ってくれないか」
「ああ。それも報告してたんですか?」
何気なく聞いたらレイが気まずそうに視線を逸らした。
「悪いな。国内での目立った技術とかも報告対象なんだ」
「いえ、別にいいんですけどね。転移箱ね……。あれ、紙とか軽いものしか送れないんですけど、それでいいんですか?」
「おう。用途は伝書魔鳥でも時間がかかるところへの連絡手段だからな」
「それなら、また作れば渡せますよ」
「そうか。なら売ってくれ。相応の対価はちゃんと払う。国の金だから、多少ふっかけてもいいぞ」
ニヤリと笑うレイにアルは苦笑する。
「転移箱にどのくらいの値をつければいいのか分からないので、そちらで決めてください。流石に原価を割るくらいの値段は無理ですけど」
「分かった。国の専門の所に聞いておこう。……そういうお前の技術力も考えて、うちの国は何とかお前を手の内にいれようとしてんだよなぁ。まあ、お前がそういうのをちゃんと売ってくれると分かれば無理な手は使わないだろ」
「あまり無理やり何かしてこようとしたら、こっちもきっちり抵抗しますよ?」
「分かってる。俺の方でも抑えるから、何か国に売り込めそうなものとかあったらじゃんじゃん教えてくれ。この国が魔の森の脅威で困ってるのは本当なんだ」
「分かりました。何か役立てそうなものを考えたら教えますよ」
「おう!」
溌剌と笑うレイと契約成立の握手をして、この場はお開きになった。
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