第24話 勇者?
「鬼馬は良質な魔石がとれるから確保して、後は……お!炎獄熊もいたんだ」
『熊肉は旨かったな』
「そうだね」
とりあえずあまり強い魔物が来なくなったので、倒したものから良いものを選んでアイテムバッグに収納する。周囲からは戦いの音が聞こえていたが、アルのところは平和なものだ。まあ、レイのところも1度大きな音がした後は静かだけど。
「どれくらいで次が来るかな?」
『さてな?魔物の速度の違いでいくつかの集団に分かれるとは思っていたが、思っていたより少ないな』
「そうだよね」
ブランと話しながら森の奥の方に視線を向ける。木々で見えないが、そちらから魔物が迫ってきているはずなのだ。
「あ、なんか気配が近づいてくるね」
『うむ。これはでかいな』
これまでとは1段違う大きさの魔力を持った魔物が1体で駆けているようだ。
「何かな~」
『……我が言うのもなんだが、呑気だな』
「ホントにブランには言われたくない」
『ふん』
先ほど魔力波を放った木のところまで下がり、視界を確保して剣を構える。呑気にしていても、戦闘においては万全の体勢を作るのは当然のことだ。
「来た!」
『ん』
木々の合間からその姿が見えた。
『シャアァァッ』
「大きい蛇だね!」
『これはなんだ?』
黒と緑の柄の蛇がアルたちを見て威嚇する。その声そのものに魔力がこめられていて、弱い者なら気絶していてもおかしくない。
「
『ほう。強いのか』
鑑定眼で見た結果に驚いて、蛇を凝視する。Aランクの魔物に出会ったのは初めてだ。
「あ、こいつの胃袋、アイテムバッグ作るのに使えるって!絶対確保するよ!」
『バッグが増えれば、肉をもっと確保できるな』
「こいつ口から酸を吐いて腐らせるみたいだから気をつけて!」
大腐蛇の周りの草木は既に枯れてきている。胃袋を確保するためには、しっかり攻撃する位置を見定めないといけない。
「ジャアァッ」
「うわっと……、えげつない……」
『……お前以上の森の破壊者がいたな』
大腐蛇が顔を空に向けた後に振り下ろす仕草を見て、さっとその延長線上から逃げた。大腐蛇が吐いた酸により、地面の一部が腐った沼のようになる。
「これは時間おいたら駄目なやつ」
試しに魔力波を放つが、大腐蛇はそれを視認して最小限の動きで避ける。流石にAランクだと、攻撃を見極める知能を持っているようだ。
「直接攻撃するしかないかな」
『我が補助してやろう』
ブランが言った途端、大腐蛇目掛けてボワッと火を放った。それは大腐蛇の顔を直撃し、視界を塞ぐ。
「ギャァシャァアッ!」
「っ、いける!」
アルは風の魔力を集めて地を蹴り、痛みに体をのたうち回す大腐蛇の顔下辺りを目掛けて跳び上がった。タイミングを見て、魔力を籠めた剣を振る。
「ギィィイィッ!……シャァ……ッ」
僅かな抵抗をはね除け剣を振り切ると、叫びを上げた顔のまま、大腐蛇の頭が飛んだ。
ズドンッと重い地響きと共に大腐蛇が地に倒れた。
「頭飛んだらもう生きてないよね?」
『流石にそこまでの再生能力はないだろう。再生というより蘇生だしな』
しばし様子を見た後、収納するために近づいた。大腐蛇から流れ出す体液に腐食性はないようで良かった。アイテムバッグを触れさせるとシュンッと巨体が収納される。あまりに大きいので、流石にアイテムバッグもいっぱいになってきた。
『次が来るぞ』
「うわぁ、休ませないつもりかな?」
すぐに魔物が迫ってくる気配を感じてちょっとゲンナリした。休みたい。
『む?僅かに逸れて来るものもいるようだ。向こうの冒険者に任せるか?』
アルが担当する範囲の右、他の冒険者との間を縫うように抜けようとしている魔物もいるようだ。
「いや、向こうの冒険者は手一杯みたい。僕らで倒そう」
魔物の襲来が激化しているのか、絶え間なく魔法を放つ音など戦闘音が聞こえる。面倒だけれどアルたちで対処するのが安全だろう。
「はあ、いつ終わるかなぁ。魔物素材はたくさん手に入りそうだけど……」
『ふん』
迫り来る魔物を森の中を走りながら倒し続け数時間、次第に魔物の数が減ってきた。それと同時にアルに近づいてくる人の気配がある。
「誰?」
「ギルド員です!アルさんですね?今回の魔物暴走の高位魔物は既にあらかた討伐されたようです。高位ランクの冒険者の皆さんには休息をとってもらいます」
「ああ、そうなんですね。ここを離れても?」
「はい。町の中へどうぞ」
誰かが森を偵察しに行ったらしい。既に森の奥から高位ランクの魔物が出てくる気配がないことが分かり、魔物暴走鎮圧は終盤戦になったと判断されたようだ。高位ランクがいないなら、A・Bランクの冒険者が無理をする必要はない。後は、休息を取りつつ魔物を討伐していたC以下のランクの冒険者の仕事だ。一応、A・Bランクの冒険者にも町で待機してもらうようだが、多分もう出番はないだろう。
やけに拓けた広場のようになっている森を驚愕の顔で見ているギルド員を笑顔で促して町に帰った。
「よお!無事だったな」
「ええ、まあ。疲れましたけど」
町に入った途端レイに背中を叩かれた。お互い怪我もないようで良かった。
「お前のほうから頻繁に凄い音してだぞ?最初の頃なんか、大量に何か倒れる音してたしな」
「ああ。レイさんが言っていたでしょう、魔力波を放つこと。僕もしてみたら、この剣が思っていた以上に魔力を吸って放てるものだから、ちょっと大規模に魔物を斬っちゃいまして」
「……そりゃ、森の木も倒れて凄い音になるよな」
アルが言ったことがどんな状況か瞬時に察したレイが呆れた顔をする。アルは空笑いで誤魔化した。
「レイさんはどうだったんです?」
「俺のほうもAランクなんかが出てきたが、お前の担当場所はきっちり倒してくれてたからな。周りをフォローせずにすんで、いつもの魔物暴走より楽だったくらいだな」
「え?いつもは周りをフォローして回るんですか?」
「まあ、周りの実力が足りないときはな」
「……なんというか、レイさんって色々背負いすぎでは?」
討伐前に話していたことではないが、レイは勇者にでもなりたいのだろうか。1人で魔物に対峙しながら、他の冒険者の危機まで救おうなんて、いくらなんでも頑張りすぎである。
「……しかたねぇだろ。この国は魔の森に面していて、どうしても強い冒険者がたくさん必要なんだ。成長途中の奴がこんなところで死んじまったら勿体ねえ」
「なんか、冒険者というより治世者的な考え方ですね」
冒険者は基本的に目の前のことしか見ていない者が多い。しかし、レイはこの国の現状を考えて国の利益を優先して自分を軽く扱っているように見える。そうした国の利益を重要視するのは、政治に関わる役人に多い考え方だった。ただし権力争いに明け暮れる腐敗した政治家は除く。
「……そんなもんじゃねぇよ」
微妙な顔をするレイを見て首を傾げた。何か不味いことを言ったことがだろうか。
「それより、流石に疲れただろ?宿はとってるか?」
「まだですね」
「……流石に今は宿空いてないぞ?何で延泊してないんだよ」
「そもそも宿には1日しか泊まってないんです。森で寝起きしてましたから」
「……やっぱお前変だわ。ありえねぇ」
レイが信じられないものを見る目でアルを見つめるので首を傾げる。確かに魔の森では魔物が厄介だが、その対処さえできれば問題ない。
「普通の人間は、四六時中魔物を警戒していられねぇの!」
「あ、そっか。僕は結界の魔道具で防いでいるので」
「はあ?結界?魔の森でそんなの通用するのか?」
「ちゃんと魔の森用に作りましたよ」
「……自分で作ってんのか」
「はい」
驚いた顔のレイがアルを凝視する。
「……そんだけ戦闘技術あって、魔道具作りまで出来るとか、お前凄すぎじゃねぇ?」
「勇者みたいなことをしようとしてるレイさんと比べたら普通です。僕はただ自分がやりたいようにやってるだけなので」
にっこり笑って言うと、レイが複雑な表情でため息をついた。
「……俺は勇者になんてなるつもりないんだかなぁ。俺も自由に生きてぇよ」
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