第23話 魔物暴走
「AランクとBランクの冒険者はこちらに!」
「CランクとDランクはこっちだ!」
「Eランク以下はこっちに来い!」
対策室から人がゾロゾロと出てきたと思ったら、そう呼び掛けながら冒険者を分け始めた。
アルはDランクなのでそちらに行くべきかと迷ったら、対策室から出てきたレイに腕を引っ張られてAランクたちの方へと連れていかれた。
「ん、そっちがお前が実力を保証するって言ったDランクか?」
「ああ」
30人ほどの冒険者たちに一斉に見られてちょっと嫌だ。そろっとレイの後ろに隠れてみる。
「……まあ、こんな感じのやつだが、実力はある。さっきも黒魔虎を討伐してきたらしい」
「ほぉ。レイがそこまで言うなら分かった。だが、我々ギルドは責任は負えんぞ」
「分かってる。……大丈夫だよな」
「ええ、問題ありません」
レイに聞かれたので頷いて答えた。
「これで森に出るのはちょうど30人か。まあ、多くはないが、何とかするしかない」
この町にはBランク以上の冒険者が30人近くいたらしい。アルの感覚からしたら多いが、魔の森の今回の魔物暴走に対峙するには少し心許ないのだろう。誰もの顔に幾ばくかの不安が窺える。
「知っている者も多いだろうが、私はカントの冒険者ギルドのギルドマスターであるデュオンだ。この度の魔物暴走の対策室指揮官を務める。Aランク及びBランクの冒険者にはギルドからの強制依頼として、森の中での魔物討伐の任に当たってもらう。その目的は1つ。高位ランクの魔物を町に近づけないことだ。Dランク以下の魔物は防壁近くで対処するから放置していい。とにかく、Bランク以上の魔物はきっちり仕留めて貰いたい。いいか?」
「……報酬は?」
「全員一律で金貨1枚。それに魔物討伐数に応じて加算される。アイテムバッグを持っていたら、自分が討伐した分は仕舞っていい。後で申告してくれ。魔物暴走鎮圧後に森の魔物の死体を回収する。その魔物素材をギルド側が査定してそれぞれの報酬に加算する」
高位ランクに対しての報酬として金貨1枚は安いが、これが町の存亡がかかったことであるのと、魔物討伐により多額の報酬増額が見込まれることから、妥当な依頼だろう。連戦が予想されるのでいちいち倒した魔物の数は把握できず、報酬の分配がアバウトになるのも仕方ない。
「自分用の魔石は確保しなくちゃね」
『ふむ。我も手伝ってやろう』
珍しくブランも乗り気である。
「よし、じゃあ、そこのパーティーは門から左側を―――」
デュオンがそれぞれに分担場所を割り振っていき、アルは門から出て僅かに右に直進した先を頼まれた。レイが門から真っ直ぐ森の半ば辺りを担当するので、レイが相手しきれなかった分をアルが担当する形になるだろう。
A、Bランクの前線ラインと町の防壁の間の森は基本的にC、Dランクが担当する。このランクの冒険者は多いから人海戦術で魔物を討伐するようだ。防壁の上からは遠距離攻撃術を持つ魔法使いや弓士などが攻撃する。
Eランク以下は防壁内での住民の避難誘導や負傷者の応急手当などを行う。防壁より外に出ると討伐邪魔になりかねないし、それで負傷した場合は用意している薬や聖魔法使いの魔力が足りなくなる可能性があるため、無理をしないのが仕事だ。
「分担場所は分かったな?周囲の者と確認しつつ、できるだけ高位魔物を通さないようにしてくれ」
「おう!」
「では、準備ができたら薬を受け取って指定位置に向かってくれ」
ギルド員が用意してくれていた傷薬と体力回復薬、魔力回復薬を受けとる。アルでも作れて、アイテムバッグにも入っているが一応受け取っておいた。損になるものでもない。用意してくれていたものはそれなりに効果が高そうな品質のものだった。
「よし、行くぞ、アル」
「はーい」
レイに声をかけられて森に向かう。どうせ近い位置なので、道中を共にした方が体力を温存できるだろう。所定位置までにも魔物はいるわけだし。
「お前全然緊張してねぇな」
「そうですね。まあ、いざとなったら1人で逃げるという手もなきにしもあらず」
「……正直だな」
襲ってくる角兎や森蛇などをさっさと切り捨てながら森の深くへと進む。
レイはアルのあっけらかんとした言葉に苦笑して頷いた。
「最終的には自分の命が大切なのは皆同じさ。1人が命を
「まあ、魔物暴走を1人で止めようなんて、無理でしかないですし。それができたら正真正銘の勇者ですね」
「勇む者、か……。確かに興奮して我を忘れない限り無理だよなぁ」
「そうですね」
『お前たち、息を吸うように雑魚を倒してるな』
ブランが呆れたように呟く。会話しながらサクサク魔物を倒し先へと進む2人に呆れつつ感心しているようだ。
「ブランもする?」
『せんぞ。こんな雑魚相手にしても面白くない』
「そう。……あ、そろそろ所定位置じゃないですか?」
町から離れた距離を考えるとこの辺だろうとレイに問うと、レイは軽く頷いて手を振った。
「ん、そうだな。じゃあ、お前はもうちょい右の方頼むぞ」
「はい。じゃあ、また後で」
レイと別れ、他の冒険者たちとの距離感を気配察知で感じつつ、ちょうど良い位置を探って木の上で待機した。
『どんな魔物が来るか楽しみだな。旨いもんだといい』
「アイテムバッグの容量を考えると全部を確保するのは無理だからね?」
『それくらい言われんでも分かってる』
「ならいいんだけど」
まだ魔物の気配がないので、ブランとのんびり喋る。森の中の人の気配を探ると、A、Bランクの冒険者は皆定位置についたようだ。C、Dランクも適度に散らばり効率良く魔物を討伐できる陣形ができていた。
魔物暴走は長い時で数日続くこともあるという。アルたちに任せられたのは、B以上の魔物を仕留めることだから、体力配分を考えてしないといけない。
「ん、そろそろかな」
『来たな』
地響きのような音とともにアルがいる木が僅かに揺れる。ブランがアルの肩から下り、ぐぐっと1mほどの体長になった。ブランの変化は3形態で、肩のりサイズと本来の3mほどの体躯、そして今回の1mほどの体躯だ。森の木の多いところでは巨体はむしろ邪魔なので、あまり本来の姿になることはない。
「おー!見て、
『旨そうだな』
じゅるりとよだれを啜る音が聞こえた。
「……ブラン、まだ生きてる魔物を見てよだれを垂らすのはさすがにやめようね」
『……うるさい』
自分でもちょっと駄目だと思ったのか、ブランが視線を逸らした。
魔物の集団は種類も強さも様々にこちらへ押し寄せてくる。
「結構集団で色々来るもんだね」
『そうだな』
「とりあえず魔力波を放ってみるから、もし逃しちゃったらブランよろしくね」
『……まあ、いいだろう』
今回の魔物暴走では攻撃によって森を破壊してしまってもいいと許可が出ていた。どうせこの辺の有用な薬草などは魔物に踏み荒らされるし、木々も同様だからだ。森への影響を考えなければ、アルも楽に対処できる。流石に火の魔法で延焼させてしまうと他の冒険者にまで影響が出るから駄目だけど。
「よし、いくよ」
剣に十分に魔力が吸われたのを確認して、魔物の集団に向けて剣を横薙ぎする。
「おお!」
剣から放たれた魔力波は、木々を伐採しながら減速することなく魔物の集団まで到達し、魔物たちを切り裂いていった。
「……ちょっと、強すぎない?」
『お前が剣に魔力を与えすぎたんだろう』
ブランが呆れたようにアルをジト目で見てから、戦闘態勢を解いて、前足を揃えてお座りする。木の上で器用なことだ。
迫ってきていた魔物の集団は、1体残らず魔力波で斬られ、地に伏していた。ついでにかなり視界も良くなった。アルの前には半ばから伐られた木の残骸が残るのみだ。
アルの魔力波より外れたところを通る魔物は凡そDランク以下のものばかりで、町側に控える冒険者に任せても支障はないだろう。
「……視界が良くなったし、次から攻撃しやすいね!」
『森の破壊者め。それで良い風にまとめたつもりか』
何とか魔力波の制御をミスったことを誤魔化そうとしたが、ブランにはバシリと尻尾で叩かれて木上から落ちそうになった。
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