一週間前 〜旅の始まりはいつも突然に〜
1
「『つぎは、南へ行かないか?』」
「なら、南極点までいっちゃいます? 冷え性の仮マスなら、すぐ死にそうですけどね」
ニコッと、屈託のない笑顔を返すブルーテに、背中から声をかけた永有珠は返す言葉が見つからない。
この天真爛漫な少女の姿をした彼女は、いつもそうだ。予測不能を通り越して、予想の斜め向かいから切り下ろしてくる。挙げ句、ジョークだとこちらが軽く構えていると、急所を実際に突いてくる。
それが、ブルーテというヒューマノイドだ。
そして、ブルーテは噓をつかない。
ひと昔前なら、ヒューマノイド基幹制限倫理規定にそういった条項が定められていたと聞く。
ひとつ、噓をついてはならない、と。
だが、条項が規定されたのは永有珠が生まれるずっと前だったし、ヒューマノイドを新しいカテゴリの機械として位置づけていたのはもっと前のことだ。いまでは、ヒューマノイドであるか否かはアイデンティティの一環として広く認知されている。ゆえに、ブルーテは、ヒトでないことを沽券に関わる極めて大切なことと、常々、主張してやまない。
そしてブルーテが噓をつかないのは、他に理由があるからだった。
「『ぼくだけじゃないだろう? たいがいの人間は南極なんか行ったら……』」
「でもワタシ、その人間、じゃないので」
遮って、ブルーテが紫色の片目をつむる。首をぐるりと正面へ戻し、陽気に鼻唄を口ずさむ小麦色の頬を沈みかけた陽の光が優しく照らしている。触れればきっと、陽だまりのような手ざわりがするだろうキメの細かい肌を、エレクトリカルなブルーの
「『それはそう、かもしれないけど』」
決定的な違いをまざまざと見せつけられ、だが永有珠の黒い瞳は現実から目を背けようとしない。夕陽に染まるブルーテの透明な
「けどもゲドもクドもないですよ? 仮マス」
玉座の正面、ブルーテの背中とのあいだに展開した不可視の
「ワタシが超ワイルドキュートなヒューマノイドだったおかげで助かったじゃないですか。じゃなきゃ、いまごろテディの胃の中です」
熟練の釣り人さながら竿を操るブルーテの言う『テディ』は、創業から二世紀つづく老舗玩具店が生み出した可愛らしいクマの縫いぐるみのことではない。同じクマでも、『森の王者』の異名を取るハイイログマ、通称、グリズリーを指していた。体重が五百キロを超すこともあるこの野生の大型肉食獣が率先して人を襲うことはない。
だが、人の手によって改造され、凶暴な
つい数日前、極東の山林へある物を還しに向かった永有珠たちを襲ったのが、そのグリズリノイドだった。
「『あのアニマノイドは捕食するんだろうか。人間を狩ることでしか満足しないように見えた』」
「そっちですか⁈ まあ、たしかに胃袋は空っぽでしたけど」
アニマノイドも機械の一種である。当然、ヒューマノイドであるブルーテとも互換性を有する。人間の永有珠では理解し得ないコミュニケーションを、マシーンたちは通信を介して交わす。
閉じたまぶたの裏に交わした通信を浮かべ、ブルーテの髪が赤みを増した。その怒りは、自分たちを襲撃したグリズリノイドよりも、気高い王者の尊厳を踏みにじった人間へのものだ。
「テディのボディは限界がきていました。もうメンタルだけで突き動いていたのでしょうね」
「『ぼくらは……テディを、楽にしてやれただろうか』」
改造されたアニマノイドを元に戻す手段は、ない。そもそも実験用として捕らえた道具を、元に戻すこと自体を想定していないのだから当然なのかもしれない。そこに、人の傲慢と残忍さが如実にあらわれている。
つぶやきのような永有珠の問いに、ブルーテは薄く目を開けて「ええ」と短くうなずく。背中越しに伝わる無力感を少しでも中和すべく、もう一度釣り竿を上下させ、ブルーテは噓をつかない自分の言葉を重ねた。
「仮マスの〈分離〉は途中でしたけど、最期に一瞬、テディの怨嗟が止んだのはほんとうです。すこしだけ、森のような景色がワタシにも見えました」
永有珠の
それが、同じヒトとして、永有珠にできる最大の——最低限の罪滅ぼしだった。
「『そう、か。きみが言うなら、そうなのだろう。ブルーテ、ありが——』」
「と言っても、トドメを差したのはワタシですけどね。仮マスはあの
当たりを正確無比に捉え、竿を持つブルーテが勢いよく、トレーラーハウスのハッチから飛び降りた。膝丈までたくり上げたデニムに水しぶきを浴びせながら、浅瀬に素足で立ったブルーテがくるりと振り向いて釣果を誇らしげに掲げる。
「やった! ほら仮マス、晩ごはんが釣れましたよ!」
顔よりも大きな白銀の大物に、夕陽よりもまぶしい笑顔をブルーテが向けてくる。「お刺身にしましょ」と昇りはじめた星宿のようにキラキラした嬉し顔の横で、蒼穹に色づいたポニーテールが澄んだ音色を跳ねさせる。
その笑顔に永有珠は、夕陽が名残惜しく思えた。
陽光が残っていれば、熱くなる頬の赤らみをごまかしてくれたかもしれないから。
「で、結局、なんで仮マスは南へいきたいんです?」
小気味よく包丁を動かしながらブルーテがそう訊いてくる。台所に立つヒューマノイドは紫陽花柄のエプロンに身を包み、小麦色の右腕でまな板に横たわる青菜を刻んでいく。
「やっぱり、あの汚物のため、ですか?」
アルトな声音に少なくない棘を立てて、ヒューマノイドは後ろを振り返らないで手に力を込めた。
「『嫌なのはわかるけど、その言い方は……ホウレンソウが飛び散ってるから、ブルーテ』」
「はい?」と細い首をかしげて、とぼけたブルーテが刻む手をさらに加速させる。そのあまりの速さに粒体を通り越し液状化したホウレンソウの汁が、ブルーテのエプロンは言うに及ばず、その腕や髪、トレーラーハウスの床、果ては一メートルほど距離を取って調理を眺めている永有珠の玉座までほとばしっていた。
なおもピチャピチャと泥遊びよろしく、過剰に菜っ葉をもてあそぶヒューマノイドは髪の色を紅色に息づかせつつ、「どうせワタシが掃除洗濯するんですから、気にしないで仮マスはだーい好きな汚らわしいモノの話でもしててください」と取り合わない。
「『……ぼくの夕食に八つ当たりするのは勘弁してほしい』」
「なら、いますぐそのボタニカリトをぜんぶ捨てるか、またワタシが汚らわしいあの石っころを運ばないといけない理由を教えてください」
「『……わかった』」
予想外の素直な永有珠の返事にブルーテは「おや?」という顔をしてようやく手を止めて振り返り、直後、愛らしいその顔を盛大にひん曲げた。
永有珠とのあいだに展開したヴェールに、ブルーテが心底嫌うその、汚れた石が浮かびあがっていた。
「『ボタニカリト・ナンバーV、〈
四方へ伸びるギザギザした葉に、寸胴型の茶黒い幹。焦げ茶色の土で見えないが、もじゃ髭の根がパイナップルによく似た姿を支えている。それだけならば、図鑑で見かける恐竜たちの傍でひっそりたたずむ、シダ植物だ。
だが、正式名称で呼ばない永有珠が見せつけてきたそのサタナイトは、葉が銀に、幹の半分がいぶし銀に置き換わっている。
「
確信のうなずきを見せ、ホウレンソウの汁にまみれた左の手首をブルーテが右手でつまんで捻った。
空気と一緒に緑のスープを吸いこむ左手を、飛び散った場所へあてていくブルーテへ若干、表情を引きつらせた永有珠がそれでも言葉を続ける。
「『正確には石、じゃない。サタナイトの構成は……』」
「イリジウムで岩石とはちがうって言いたいんでしょ? はいはい、わかってますから。ボタニカリトを運び出したの、ワタシですからね? ついでに仮マスの家出に現在進行形で付きあっているのもワタシですし、虫の息だった仮マスの元へ颯爽と駆けつけたのも——」
「『ドゥアールのところへ乗りこむ』」
その名前は、ブルーテが息を詰めるのに充分すぎるほど充分だった。
2
好き嫌いははっきりしているほうだ、とブルーテは自覚している。
超高高効率元素変換エンジンを体内炉に持つブルーテは
ヴェールのボタニカリトの映像を消し、決意と隠しきれていない恐怖が混じった黒い瞳を向けてくる永有珠の発した名前は、ブルーテが記憶に持つ個人ネームのなかで上から二番目に嫌いな名前だった。
それは永有珠も同じ——否、ブルーテ以上のはずだった。
「……よくタイピングできましたね、仮マス。成長にブルーテおねえさんも嬉しい——」
「『茶化さなくていい、ブルーテ。年齢を言うなら、きみが妹のはずだし、だったら兄のぼくはいつまでも怖じ気付いてちゃいけない。——殺されかけた相手の名前を聞くだけで発作を起こすようじゃ、ダメなんだ』」
「仮マス……」
豊富な語彙を持つブルーテも返す言葉が見つからない。紫の瞳を放さないその強い黒瞳に、ヒューマノイドはふっと口元をほころばせ、手首を軽く握る。
キッチンラックに並んだ調味料ボトルから、
飛び散った野菜の汁はまだ残っているが、片づけはあとでもいいだろう。
「とりあえず。食事にしましょ。食べながら、聞かせてください」
まな板から離しておいた瑠璃色の刺し身皿を手に取り、黄色い菊の花をちょこんと箸で載せ、ブルーテの足がトレーラーハウスの中央へ向いた。話の腰を折られ背後から文句が挙がる、ことはなく、すぐに宙に浮いた玉座のジジッという駆動音が続いた。
「『刺し身って、うまいのか? 磯臭いし、跳ねていた姿はなんというか、グロテスク』」
「人の好みに口を出すものではありません。匂いや見た目で判断するのも、マナー違反ですよ? 仮マスも食べてみればいいのに」
「『客観的意見を言っただけなんだけど……いや、いいって。きみが好きならそれで問題ない』」
ぐいっと生魚を鼻面に差しだされ、血色の悪い永有珠の顔がさらに色を失せる。その様子にブルーテがわざとらしく人さし指を振って「お魚を食べると頭がよくなるんですよ」と片目をつむってみせた。
「『……それ以上の頭脳は、怖い』」
ぼそっとつぶやいた永有珠を横目に、フローリングから
「とぅやっ!」
横に駐まった玉座の腹へ、前触れもなくブルーテが拳を軽くめり込ませると「ぐっ⁈」とうめき声が上がった。
「ちょっとメタボ気味じゃないですか?」
「『め、メタボ?』」
「昔の健康指標です」
肩をすくめてやるブルーテに怪訝な顔を向けてくる永有珠。さっと視線を走らせ、検索しているらしい横顔から緊張が取れてきたな、と深めた自信を表情に出さず、シャンッと振った左腕からシリンジ代わりの尺骨を分岐させて羽衣のコネクタにつなげながら、ブルーテが改めて問い直した。
「それで、高慢ちき公爵にリベンジすると?」
「『不穏な表現だな。ある意味、そうかもしれない』」
言って、永有珠がヴェールにウェブサイトを表示させた。
「これは……」
ヴェールに映ったものはブルーテと共有されている。モダンな美術館のサイトに見えたそれは、だが違和感を覚えたブルーテが記憶の海を探すと、やはりそこに見覚えはなかった。
世界中の美術館はすべて記憶している。ヴァーチャルミュージアム巡りはブルーテの密かな趣味だ。
そして黄金色の煌びやかなフォントで彩られた美術館のその名前を見て、ブルーテはシリンジの中身を押しだすことさえ忘れそうになった。
「『オウカ・ゾウゾウ・メモリアルミュージアム。偉大なるお師匠の記念館だそうだ』」
息を詰めたブルーテは無意識に永有珠へ視線を移す。青白いその顔が慣れない冗談に歪んでいないか、はたまたブルーテを苦しめることに快を覚えるようになったのかを見極めるためだ。一日のあいだに嫌いな名前のワンツーを耳にするなど、嫌がらせ以外の何でもない。
だが、永有珠も歯を食いしばるように苦しみを堪えていた。
「『このミュージアムは完全ヴァーチャルで、展示品はぜんぶデータだ』」
インターネットとインターフェイスの進歩によって、鑑賞者は現実の美術館へ足を運ぶ必要がなくなった。それはあくまで一般の美術ファンにとっての恩恵であり、ブルーテたちの目的と真反対といっていい。こと永有珠にいたっては、データが相手なら手も足も出ない。
見当外れだという自覚を持ちつつ「
「『見方によっては。この機会を利用できれば、ぼくたちの旅がはやく終わるかもしれない』」
「——え」
ヒューマノイドの思考はヒトの何倍も冗長性が保たれている。
が、このときのブルーテばかりは、頭が真っ白になったのだった。
「——それは、どういう……?」
かろうじてブルーテがしぼりだした問いに「『これを見てほしい』」と答えを先延ばしにした永有珠が古風な便箋をヴェールへ広げた。
「『これは、師匠——ゾウゾウ宛てに送られている。いくらドゥアールでも、故人に故人を偲ぶレセプションの招待状を送付するとは考えにくい。公爵は師匠にぞっこんだから』」
ジャン・クロージャン・ドゥアール公爵。
称号がただの意味付けでしかなくなった二十一世紀末において、ドゥアールの名が示すものは権力そのものだ。南フランスに広大な領地を有するワインの名家として、傘下企業三千二百を束ねる巨大メディアグループの会長として、あるいは「天国と地獄に顔が利く」と言わせしめる世界中に張り巡らせた交友関係が、一人の美術品コレクターを文字どおり、覇者と同義に結びつけた。
そんなドゥアールがもっとも尊敬するアーティスト——彫刻師の
「……どうしてマスターに?」
「『宛名はゾウゾウだけど、中身は——』」
デジタルの格式ばった筆記体を瞬時に読みとったブルーテが、大きなその瞳をさらに見開いた。
宵闇に包まれた海辺を透過した車内は、まるで無人島の砂浜でテーブルを囲っているよう。その食卓を囲う二人を、間接灯があわく照らしている。永有珠とブルーテのいる空間そのものが明るくなっているようだった。
凪いだ潮騒が優しく包み、低い緯度のおかげで少しだけ冷たい潮風が吹く。
沈むような灰色だった髪をほのか朱へ色づかせて、ブルーテは怒りの対象へ口調を強める。
「"ゾウゾウ師の最高傑作に告ぐ"ですって⁉ マスターはそんなことまであの見下し野郎に話していたんですか。まったく、たぶらかされるにもほどがありますよ」
「『そこなのか? 最高傑作なんて言い方は……』」
ヒトとして見ていない。
そう言いかけた永有珠のさきを越して、小麦色の頬に片手を当ててヒューマノイドが目をつぶる。
「ほめられてうれしくない乙女はいませんよ。人間じゃなくても」
朱色のヘアカラーを刹那、新緑へ変えて息をつくブルーテに永有珠は目くらましをくらったような顔をする。本人が喜んでいるなら、とやかく言うべきではない。のだが、やや頬を赤らめてうっとりしているブルーテを見ていると、永有珠は胸のあたりがどうにも居心地悪かった。
「『き、きみはドゥアールに言われなくともす、すばらし、い』」
「じゃあ、招待状は破り捨てていいですね?」
「『……脈絡が見つからない』」
ブルーテとの会話はワープする船にしがみつくようなものだ。刺激的だが、間違いなく苦労する。行き先が読めないからだ。
そんなヒューマノイド本人は自省する素振りも見せず、手首を捻ってシリンジを切り替える。胃へ流れこんでくる白湯がじんわり温かい。
「まだまだ先読みが足りませんねぇ仮マス」
箸置きから漆塗りの一膳を手に取り、器用にしょう油の小ビンをつまんで小皿へ滴らせると、親指で箸を挟みなおしたブルーテは「いただきます」と片手で合掌した。
「ならどうしてワタシに招待状を見せたんです?」
「『ドゥアールは、きみが師匠のすべてを継いだと思っているんだろう。弟子は自分の手で消したんだから。だったら当然、そこにボタニカリトも含まれる』」
「汚……植物もどきがいくつあるかなんて、公爵は知らないはずです」
わざとらしく魚の切り身を咀嚼してからブルーテが推測を口にする。
ボタニカリトは、最晩年のオウカが自らの天命を悟ったように造りだした作品群だ。展示はおろか、人目に触れないよう永有珠へ保管庫に収めるよう言いつけていた。唯一の知己といってよかったドゥアールが根掘り葉掘り、他のボタニカリトの存在を聞き出そうとしても口を割らなかった。打ち明けていたなら、とっくに家探ししているに違いない。
「『教えてもらえなかったくらいで諦めるような人じゃない。密葬に断りもなくあらわれてドゥアールはなんて言った?』」
天上で秘め事を持つなら、下界に知る者を残すな。
自分に隠しだてしたければ、知っている人間をすべて消せ。
「……なのに義理硬いという」
悪びれるどころか、こちらを見下しきった紺色の双眸はブルーテもはっきり覚えている。完璧な作法でしずしずと線香を立て、そのまま立ち去っていなければブルーテの鉄拳が飛んでいたことだろう。
「『悔しいけど、葬儀のときにドゥアールが師匠の一周忌まで干渉しないって言ってくれなきゃ、ぼくらはとっくに消されてる』」
「仮マスは消されかけたじゃないですか」
「『あれは……考えなしだったぼくの自業自得とも言える』」
膨らませた頬に刺し身を放りこみ、ブルーテが「だめだコイツ」とでも言いたそうにぐるりと目を回す。
「つまり、ドゥアールが罠に誘っているってわけですね。自分のほうからは手を出さないが、ノコノコやってきたら容赦しない。っていう」
「『……どっちの味方なんだ?』」
「おあいにく様」
ウインクを返すヒューマノイドの意図を、永有珠は怪訝な顔でつかもうとする。それを察したように、プイッとそっぽをむいた小麦色の肌を持つ少女のヒューマノイドが口を尖らせた。
「そんな質問をするような人に、答える義理はありません」
無限のパターンを生みだすグラスファイバーの髪が、緑の色からドス黒く変わり、すぐさま透明にもどった。愉快が一転、憎悪を膨らませ、明鏡止水の域に達したというわけだ。
とはいえ、乙女心を理解していると自負する永有珠は、謝罪ではなく素直に頭を下げるほうを選んだ。
「『きみの言うとおり、ドゥアールに狙いがあるのは間違いない。だとしても、すべてのボタニカリトを還す機会はそうそうない』」
「……すべて?」
空になったシリンジを永有珠の腹から外し、軽やかにシリンジを腕のなかへ戻したブルーテが首をひねる。乙女心をまったくわかっていない相方にあきれるのはいつものことで、単に話が見えなかったからだ。だがそんなことを口に出せば、相方は無い尻尾を振りかねない。
残り少ない刺し身を頬張る横からかかった声は、相変わらず無感情なものの、すでに得意げだった。
「『かのドゥアール公爵の異名は?』」
「天庭の番人……」
乏しい表情で自慢げにする永有珠にブルーテは最後の切り身を口へ運んだ。
淡泊すぎて味はほとんどわからなかった。
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