22話 Bランク昇格試験2
流されるがままに新たな仲間リックを迎え入れた二人は、試験官に事情を説明し、彼らが担当することになる要人の下に案内されることになった。
「なんだなんだ。まだ子供ではないか。本当にこんなので大丈夫なのか?」
数人の付き人を従えて現れたのは、ふくよかな体格をした初老の男だった。
こちら3人――特に体の小さいクロムを訝しげな目で見ながら不安を口にする彼は、この王国で広く展開されているチェーン店の経営者の一人らしい。
具体的な店名は明かされなかったが、そんな大層な人物を自分たちのような受験者に任せて良いのかという疑問が深まるクロムとルフラン。
「そんなに心配すんなよ、旦那。俺はともかくそこの二人は最年少かつ最短でBランクにあがろうとしてる腕利きなんだ。あんたのことはきっちり守り切ってくれると思うぜ。あ、もちろん俺も頑張るけどな!」
一方でリックは臆することなく男に近づいて語りかけた。
明らかに年上で依頼人でもある人物に対してそんな口の聞き方で良いのかと思ったのだが……
「……ふん。まぁ依頼通り目的地までしっかり送り届けてくれれば良い。口先だけではないことに期待しているぞ」
「ああ! 任せてくれ! な、二人とも!」
「え、えぇ……」
「は、はい……」
「それじゃあさっさと出発しようぜ!」
何故かリックがリーダー面して二人を率いる形になっていることに対して面白くなさそうな顔をしながらも、手配された馬車に乗り込むルフラン。
一方でクロムは一人、別のことを考えていた。
(リックさんの得物はきっとあの背中の大斧……だよね。そうなると僕とリックさんの二人が前衛でルフランが後衛……僕はどんな戦い方をするのがベストかな?)
それは魔物などに襲われた時の戦闘についてだった。
ルフランとは既にある程度息を合わせた立ち回りを行うことができるが、初対面であるリックの戦闘力、戦闘スタイルについては未知数だ。
場合によっては戦い方が噛み合わずお互いの足を引っ張りあってしまう恐れもある。
それならば最初はリックに前に出てもらって自分は様子見しつつ後から合わせる形が良いかもしれない。
「クロムー! 何してるの? 早くいくわよ!」
そんなふうに思考を走らせていると、馬車の中からルフランの声が響いた。
「あっ、すみません! すぐ行きます!」
クロムはここで深く考えても仕方がないと判断し、ひとまず出発することにした。
さて、今回の目的地は王都アウレーから二つのエリアを挟んだ先にある港町ポルトゥスだ。
この王国では町と町は隣接しておらず、移動したい場合は魔物に襲われる危険性があるエリアを横断しなければならない。
曰く、これは魔物が自然発生しない場所を選んで町を作ったからとのことらしいが、クロムはその辺りについてあまり詳しいことは知らない。
ちなみにこの馬車を引いている馬は普通の馬ではなく、長距離移動に特化した魔法生物である。
そのため運用するのに特殊なスキルと免許が必要となるが、その代わり通常よりも早く目的地に到達することが可能となるのだ。
現在クロム達が進んでいるのはタルガ山道と呼ばれるエリアで、過去に何度か魔物の討伐依頼で訪れたことのある場所だった。
馬車用の道はしっかりと整備されているので、3人は何かが起きるまで経営者の男と中で待機だ。
しかし待ち時間が退屈になることは無く、常にリックが何かしら話題を作って雑談を持ちかけてくるのでそれだけで若干疲れてしまいそうになるほどだった。
初対面の相手に対してその素性を問うのは冒険者としてのマナー違反なので、話題としては依頼で起きたハプニングやお気に入りの店についてなど取り留めのないものばかりだが……
「お、おい! 魔物が出たぞ!」
そんな事をしていると、馬車の操縦者から声がかかった。
慌てて外に出てみると、そこには緑色の肌をした小人達――ヴェールゴブリンがこん棒を携えてこちらに向かってきていた。
奇声を上げながら迫ってくる彼らを前に、馬車の操縦者はやや不安そうな顔をしながらこちらを見る。
クロムは妖刀を、ルフランは杖を構えて早速戦おうと思ったのだが――
「まあ待て待て。これくらいなら俺一人で十分だ」
「でも……」
「見ててくれって。俺もちゃんと戦えるってことを証明しねえとだろ?」
「あ、ちょっ――」
そう言ってリックは背中の大斧を抜いて勢いよく駆けだした。
その速度はなかなかのもので、すぐさまゴブリンたちとの距離を詰める。
そして地面を蹴って飛びあがったかと思えば、勢いよくその斧を振り下ろした。
「――――ッッ!!」
ゴブリンの悲鳴が響く。
体液をまき散らしながら真っ二つにされた仲間を見て動揺したのか、動きが一瞬鈍くなる。
その隙を逃さないと言わんばかりにリックは軽々と斧を薙ぎ、残るゴブリンも叩き斬ってしまった。
「ふー、ま、こんなところよ! 見ててくれたか?」
その声に二人は無言で頷く。
ヴェールゴブリン自体はDランクの魔物でそれほど強い相手ではないのだが、リックの動きはそれなりに洗練されていた。
少なくともちゃんと戦えるという言葉に偽りはなかったようだ。
そうして魔物たちの処理を終えた一向は、時折魔物に襲われながらも順調に目的地まで進んでいった。
これならば予定通り日没までにはたどり着けそうだな、などと考えていたクロムたちだったが――
「な、なんだこれは!」
馬車が急に足を止めたので外に出てみると、そこには道を丸ごと塞ぐように巨大な岩が鎮座しているではないか。
このままではこの先に進むことは出来ない。
一行はどうしたものかと首を傾げることになった。
「参ったなぁ……これじゃあ迂回するしかないじゃねえか。そうなると道は二つ、か」
「クソっ! こんな時にツイてない! なんとしても日没までにはポルトゥスに到着しなくてはならないというのに!!」
経営者の男とリックがぶつぶつと喋っている中、ルフランとクロムの思考はある方向性で一致していた。
そしてそれはルフランが提案するという形で表に出る。
「ねえクロム。アレ、斬れないかしら?」
「ええ、ルフラン。ちょうど僕も同じことを考えていました」
「は?」
己の身長の何倍もある巨大な岩。
触ってみるとただの岩ではなく、硬そうな金属も混じっているようだ。
だが、クロムの手にある刀は圧倒的な切れ味を誇る妖刀だ。
大地すら軽々と切り裂いたこの相棒ならば、こんな岩程度簡単に斬れるに違いない。
そう思い、クロムは刀を大上段に構えた。
「いきますよ――」
クロムの周囲に紫色の煙が渦巻き、大気が震え始める。
凄まじい圧が場を支配し、ルフランの額にもうっすらと汗が
だが――
「まっ、待て待て待て待て!! お、お前! いったい何をしようとしている! 今すぐやめるんだ!」
それは非常に慌てた様子の経営者の男だった。
急いでいるはずなのになぜ彼が止めるのか、その意味が理解できなかったクロムは乱された集中を取り戻すべく再度呼吸を整えた。
「おい! やめろと言っているだろう! その刀を収めろ!」
「大丈夫ですよ。あの岩を斬り落とすだけなので、ご心配なく」
「もし万が一私たちが巻き込まれたらどう責任を取るんだ! 今すぐやめろ! もしそのまま続けたら危険行為としてギルドに訴えるからな!」
「え……それは困りますね……仕方ないか」
その言葉を聞いたクロムは渋々刀を収める。
何故この男はそんなにも過剰に反応したのか全く理解できなかったが、自身の行動のせいでルフランにまで迷惑がかかるのは避けたいので仕方がない。
男はクロムが言うことを聞いたことで一安心したのか、大きく深呼吸して落ち着きを取り戻すと、
「――危なかった。あんなのは想定していなかったぞ……」
誰にも聞こえないように小さく呟いた。
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