21話 Bランク昇格試験1
「クロム様、ルフラン様。お二人とも依頼の達成回数が規定数を突破した事によりBランク昇格試験の参加資格を獲得されましたがいかがいたしましょう」
魔物の討伐依頼を順調にこなし続けておよそ1ヶ月ほど経過したある日、いつものように依頼を受けようと受付に向かうと、二人が待ち望んでいた言葉を告げられた。
クロムが冒険者デビューをして以降、毎日のようにCランクの中でも難易度の高い魔物の討伐クエストをこなしていた事によって爆速で条件を満たしてしまったのだ。
正確にはルフランは半月ほど経過した時点で条件を満たしていたのだが、試験を受けるときはクロムと一緒が良いとの事でクロムが条件を満たすまで保留にしていたのだ。
「ええ。お願いするわ。クロムもいいよね?」
「はい。お願いします」
「承知いたしました。それではこちらで手続きさせていただきます。次回の試験予定日は――」
それから受付嬢によるBランク昇格試験についての簡単な説明があった。
と言っても何が行われるかは当日まで明かされないらしいので事前準備などはほとんど必要ないそうだ。
普通は昇格試験への参加が決まったらそれまでは依頼を受けずに待機することが多いそうだが……
「他にやることもないし依頼を受けた方が鍛えられるしお金も稼げていいと思うわ」
というルフランの意見により、今日もいつも通り魔物の討伐依頼を受ける事にした。
クロムとしても少しでも多く実践経験を積んでおきたいので異論はなく、試験日前日を除いて働き続けることに。
そして試験日当日を迎えた。
雲一つない快晴。
照りつける太陽がじりじりを皮膚を焼く感覚を覚えながら、指定された会場で待っていると、やがてギルドの制服を身に纏った人たちがぞろぞろとやってきた。
皆真剣な面持ちで、これから行われる試験は決して緩いものではないということが窺える。
そのうちの一人、顔に刻まれた大きな切り傷が目立つ大男が前に出てきた。
「試験官のクライブだ。定刻につき、これよりBランク昇格試験を始める」
淡々と、それでいて力強さを感じる声で試験開始を告げた。
改めて周囲を見渡してみると、この会場にはクロムとルフランの他におよそ10人の受験者が存在していた。
明らかに固定パーティを組んでいると分かる距離感の者たちと、ソロで活動していることを示すかのように孤立する者、あるいは慣れた仲間が隣におらずやや落ち着きのない者など、同じCランク冒険者にも様々な種類がいることが分かる。
ふと隣を見てみると、いつになく真面目な表情で試験官の話を聞くルフランがいる。
彼女はクロムの視線に気づき小さく頷くと、ちゃんと聞いておきなさいと小声で呟いて首をクライブの方へ向けた。
「今回の試験では諸君らがBランク冒険者として相応しい実力と心構えを有しているかを問うことになる。そのことを心に刻み望んで欲しい」
クライブはこの試験の意義を説き、ギルドが求める人材と成れるよう激励を贈った。
それに対して真面目に聞く者、つまらなそうにあくびをする者、早くしろと意気込む者と、受験者の反応は様々だ。
「――ではこれより試験内容を発表する。今回行う試験は――要人の護衛だ」
その言葉を聞いた受験者たちがざわつき始める。
戦闘試験のみであったCランク試験と大きく異なるそれは、彼らを大きく警戒させた。
しかもただの護衛任務ではなく、要人の護衛任務ときた。
それは実際のBランク以上の冒険者が請け負う依頼そのものだ。
いくらBランク冒険者候補とはいえ、まだCランクの自分たちが受けて良いのだろうか。
「静かにしろ。この程度で動揺するな。この場で失格にされたいのか」
「――――ッ!」
鋭い視線と低く重い声を以って受験者たちを黙らせた。
彼らはごくりと喉を鳴らし、口を閉じてクライブの次の言葉を待つことを選ぶ。
その様子を見て、クライブは賢明だと小さく頷いた。
「では改めて具体的な内容を説明する。一度しか説明しない。しかと耳に刻め」
クライブは返事をする暇も与えず、淡々とその内容を語り始めた。
まず、この試験を受けるにあたって二人以上四人以下のパーティを組むことが求められる。
その後、そのパーティは自身らが担当する要人を所定の場所まで護衛する。
パーティによって目的地と到着予定時間が異なるが、だれがどの人物を担当するかはランダムで決められる。
また、この試験では個人ごとに評価され、パーティ内で試験結果が異なる可能性も大いにありうる。
最後に受験者はこれを実際の依頼と同等と認識し、全力を以ってこれに臨むこと、と締めくくった。
「では既にパーティを組んでいる者は私の下に来て登録をしてもらう。また、今回組む相手がいない者は申し出ろ。こちらで調整する」
クライブがそう告げると、数人が動き出した。
それを見たルフランがこちらを向いた。
「さ、クロム。あたしたちも行きましょ」
「はい。僕たちは既に固定パーティ組めてますからね」
この状況で改めてルフランが自分を誘ってくれて良かったと思い、彼女に感謝した。
もし一人ぼっちでこの試験に臨んでいたら他の人にうまく声をかけられずに完全孤立していた恐れすらある。
他者とのコミュニケーションは多少慣れてきたものの、長く他人と触れ合ってこなかった影響はそう簡単には取り除けないのだ。
そんな訳で彼女の後に続く形でクライブの下へ向かおうとしたのだが、その時後ろから誰かに呼び止められた。
「おい! ちょっと待ってくれ!」
「えっ……? な、なんですか?」
「どうしたのクロム。アナタの知り合い?」
「い、いえそんなことはないんですけど……多分」
「なぁ、あんたら二人ってもう組んでるんだろ? 俺は生憎ソロで組む相手がいねえんだ。もしよければ一緒にやってくれねえか?」
その男は、クロムとルフランよりもやや年上と思しき青年だった。
明るい茶髪と頭に巻いたバンダナが特徴的な彼は、明るく親しみやすそうな雰囲気を持ち、クロムの警戒心をやや緩めることに成功していた。
一方でルフランの方はあまり面白くなさそうな顔をしながら彼を見定めるような視線を向けている。
そして一息つくと、彼を突き放すようにこう言い放った。
「悪いけどあたし達は二人で十分なの。さっきソロなら申し出れば調整してくれるって言ってたわけだし、そっちに頼ってみたらどう?」
「まあまあそうつれないこと言うなって。試験官が適当に組んだパーティより俺が信用できそうな奴らとやった方がいいって判断しただけのことよ」
「ふーん……それはつまりあたし達の事を信用してるって意味?」
「少なくともこの中ではな。強いヤツってのは見ただけでなんとなくわかるもんさ」
それに関してはクロムも多少理解できるところがあった。
強者というのは大抵独特なオーラというか雰囲気をその身に纏っているものだ。
クロムも初めてエルミアやアルファンに出会った時にそのただならぬ様子を感じ取ったことを今でも覚えている。
「まぁ、いいんじゃないですか? 僕たちとしても人数が多い方が護衛の成功率が高まるかもしれませんし」
「おう。自分で言うのもなんだが、戦闘にはそこそこ自信があるぜ。足手纏いにゃならねえよ」
「……まぁいいわ。どうせこの試験の間だけだし」
「サンキュー! 助かるぜ! あっ、そういえば名乗ってなかったな。俺はリック! よろしくな!」
そう言ってリックと名乗った青年は笑顔を浮かべた。
一方でルフランはどこか懐疑的というか、あまり納得がいってなさそうな表情だった。
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