13話 招かれざるドラゴン2
それはルフランが持つ、自身の影響下にあるあらゆるものに爆破属性を付与する固有魔法。
一言で言えば、どんなものでも高威力の爆弾に作り変えてしまう凶悪な能力だ。
そしてルフランの手によって作り出された爆弾は任意のタイミングで瞬時に爆破させることが出来る。
彼女はこの魔法を行使し、ドラゴンの眼前で大爆発を引き起こした。
固有魔法とは本来、高位の魔法使いが己に与えられた固有の魔法特性を理解し、研究し、それをオリジナルの魔法へ昇華させて完成するもの。
ルフランは弱冠14歳にしてそれを成し得た。
故に天才魔法使いとしてCランク冒険者と認定されるに至ったのだ。
「エクリクシス」
ルフランは再度、己の固有魔法を唱える。
先ほどの爆発が不快だったのか、もくもくと白煙を上げながら首を振り回すドラゴンの顔が再度爆発する。
そしてルフランは続けて魔法を展開し、彼女の周囲に無数の小さな火球が大量に生成される。
これらは火属性魔法で生み出された極小サイズのファイアーボールだ。
それらを全てドラゴンに向けて発射する。
理論上この魔法を行使すればドラゴンの体そのものを爆破させることも可能だが、両者の間には埋めようのない格差がある。
現状ルフランの実力ではドラゴンの肉体に影響を与えることが出来ない。
だからこそこのような間接的な方法でドラゴンの周囲を爆破する手段を取ったのだ。
「クロム、行って! あたしが引き付けておくから今のうちに!」
「分かりました!」
ルフランの言葉を受け、クロムが駆けだす。
直後、ルフランの呪文と共にドラゴンの周囲を囲んでいた火球たちが一斉に爆発した。
耳を塞ぎたくなるような轟音が響く。だがクロムは足を止めず、そのまま空中へと飛び上がった。
こんな魔法があるのかと素直に感心しながらも、自分の役目を果たすべく刀を構える。
さっきの一撃は浅かった。次こそは
「――っ!」
再度、ドラゴンの咆哮が鳴り響く。
そして翼を乱暴に振り回すことで煙をかき消し、凄まじい勢いで急降下してきた。
気づけば空中を蹴りあがるクロムの真正面にドラゴンの顔面が迫っていた。
ドラゴンもそれに気が付いたのか、大きく口を開いてブレスを貯め始める。
ならばそのブレスごと切り裂いてやろうとクロムは刀を上段に構えた。
「エクリクシス!!」
しかしそこに割って入るものが一人。杖を前方に突きだし呪文を唱えるルフランだ。
ドラゴンの右目付近で激しい爆発が発生し、その首が大きく左に振られる。
そしてその勢いのままブレスが発射され、真正面のクロムに対して大きな隙を晒してしまう事になり――
「もらったッ!!」
勝利を確信したクロムはそのまま勢いよく刀を振り下ろす。
その切っ先はドラゴンの首に沈み、紫の剣閃がドラゴンの全身に
確かな手ごたえを感じながら、そのまま刀を振り切る。
「や、やったのね!? はぁ、はぁ……」
真下には杖で体を支えながら息を切らすルフラン。
彼女の固有魔法は強力な分、燃費が悪い。
一連の魔法で激しく魔力を消耗してしまったのだ。
ドラゴンは断末魔を上げながら、勢い良く地面に落下していく。
しかしそのすぐ下にはルフランがいた。
このままではマズいと思い、クロムは慌てて空を蹴り、落ちゆくドラゴンを追い抜かす。
「ひゃっ!?」
驚くルフランを抱え、再度地面を蹴ってその場から離れる。
そして安全なところまで避難すると、その直後、激しい音を立ててドラゴンの巨体が地面に叩きつけられた。
「ありがとうございます、ルフラン。おかげで楽に斬れました」
「あの、えっと、うん。クロムこそ凄かったわ。でもえっと、とりあえず下ろしてくれない?」
「あ、すみません」
頬をやや赤くしながら視線を逸らすルフラン。
クロムは優しくルフランを下ろすと、ドラゴンを斬ったばかりの妖刀へ視線を向ける。
「……満足、したのかな?」
光り輝く刀身には真紅の血が染みついていたが、まるで飲み込まれるように少しずつ薄れていく。
それと同時にクロムを覆っていた紫色の煙も吸い込まれていき、刀身から完全に血が消えるころには輝きも収まっていた。
相変わらず刃こぼれの一つもない。それどころか汚れすら勝手に消えてしまう。
切れ味は抜群。持ち主の傷も自動で癒してくれる機能付き。
本当にこんなのが呪われた妖刀なのかと疑いたくなるくらい素晴らしい刀だ。
「はぁぁ、つっかれたぁ……」
ルフランが地面に座り込み、大きく息を吐いた。
クロムも強敵との戦いを終えて少し気が抜けてしまい、ルフランの隣に尻を落とした。
彼女の顔を見ると、疲れてこそいるが満足そうな顔をして笑った。
それにつられてクロムも笑みを浮かべる。
「クロム。アナタってあたしの想像以上に強かったのね」
「ルフランこそ、あんな魔法を隠し持っているなんて思いもしませんでしたよ」
「そりゃあ奥の手だもの。普段から軽々しく使ったりしないわ。まああのドラゴンには傷一つ付けられなかったけど」
ルフランとしては自慢の魔法だったので、少しくらいダメージを与えたかったらしい。
やや不満げな顔をするも、分かっていたことではあるのでそこまで引きずる気はなさそうだ。
「でも凄かったですよ。あんなのに巻き込まれたら僕もただじゃ済まなそうです」
「――じゃあ、今度試してみる?」
「それは勘弁してください……」
「あははっ、冗談よ冗談。さ、少し休んだら一度拠点に帰りましょ」
そう言って楽しげに笑うルフランの顔を見て、クロムも少し嬉しい気分になった。
あのままルフランの支援なしで戦っていても、妖刀の回復がある限り負けはしなかっただろう。
しかしきっと一人で戦っただけでは得られない満足感がここにある。
改めてルフランとは今後もうまくやっていけそうな気がすると感じたクロムだった。
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