14話 本末転倒
竜の脅威が去り、再び平穏を取り戻した大空は、雲一つない快晴となった。
しかしその反面、
地面が大きく抉れ、ところどころに残火が散る中、クロムとルフランはゆっくりと拠点に向けて歩いていた。
「――あっ」
その途中で、ルフランが何かを思い出したかのように声を上げる。
そして何かを探すようにきょろきょろと周囲を見渡し、走り出した。
クロムは慌ててその後を追う。
「ちょ、ちょっとルフラン! どこ行くんですか!」
「すっかり忘れてた! あたし達、まだステルクウォルフの討伐部位を回収してないじゃない!」
「討伐部位?」
「ステルクウォルフの
「なるほど。じゃあすぐに回収しに……いや、無理、か?」
クロムとルフランは足を止め、あらためて周囲の状況を見る。
ドラゴンが至る所にブレスを吐きまくったせいでその直線上にあったものは綺麗さっぱり消滅してしまっていた。
つまり最初のブレスが飛んできた際、直線上に放置してあったステルクウォルフ達の死骸はきっと……
「……もう一度探しに行きます?」
「嫌。今日はもう無理。早く休みたい」
クロムの提案をルフランはあっさりと却下した。
クロムとしても今からどこにいるかもわからない魔物を探しに行くのは面倒だなとは思っていたが、このままでは依頼失敗になってしまうのも面白く無いなとも思った。
基本的に魔物の討伐依頼を受注した場合、冒険者はその魔物を倒し、解体することで討伐部位を集め、ギルドに提出することで依頼完了となる。
討伐部位は対象の魔物によって異なるが、多くの場合、
ちなみに討伐部位以外にも武器や道具の材料になったり研究用として需要のある部位もあり、それらを提出することでギルドに買い取ってもらうこともできる。
残念ながらステルクウォルフに関してはその対象になる部位はないようだが……
「代わりにドラゴンの討伐部位を提出することで許されたりしませんかね?」
「許されるも何も、別に今回の依頼は失敗したところでペナルティは特に無いわ。もちろん報酬はもらえないけどね」
「それは……」
「あとドラゴンに関しては後で拠点に戻った時、ギルドに素材回収要請を出すわ」
「素材回収要請……?」
「そ。あんなデカブツ、あたし達だけでバラすのは大変でしょ。だからギルドに人を出してもらうの。ドラゴンには使える部位がたくさんあるから、十分利益は出るわ」
「な、なるほど……」
ルフランがドラゴンの死体に手をつけなかったのはそういうことかと納得する。
同時にギルドにはこう言った状況に合わせた対応策も用意されているのかと感心した。
無論相応の手数料を取られてしまうので、自分達のパーティで全てを済ませられるのであればそれに越したことはないのだが。
「……帰って休みましょ。お風呂入って早く寝たいわ」
「……そうですね」
ステルクウォルフの件に関しては残念ではあるが、こればかりは仕方がない。
クロムとルフランは一度拠点に戻って軽く休憩した後、王都アウレーまでの帰路に就いた。
二人が王都の門を潜る頃にはすっかり陽が落ちていた。
そして
「まずはお疲れ様でした。そして申し訳ございません」
受付の人に何故か謝罪をされることとなった。
曰く、本来クロム達が訪れたロシュ平原にはあのようなドラゴンが出現するはずが無かったらしい。
あのドラゴンは別名「
もし適性よりも
だがクロム達はCランクで紅炎竜はAランク。
このように2ランク以上差があるモンスターが出る危険性がある場所には行かせてはならないらしい。
ギルド側の想定外とはいえ、クロム達はそんな説明を一切受けることなく紅炎竜と対面してしまったので謝罪に至ったとのこと。
もしこれがクロム達でなければ、死んでいてもおかしくは無かっただろう。
ルフランもその事を指摘し、静かながら怒りを露わにしている。
一方クロムとしてはもし負けて死んだらその時は弱かった自分のせいだ、と思っていたので、特別ギルドを責める気は起きなかった。
「この件はギルドマスターに報告し、再発防止に努めます」
「ええ、そうして」
「はい。では後日、紅炎竜の素材の鑑定結果と買取価格のご確認のためにギルドへ来ていただきたいのですが、ご都合の良い日はございますか。最短ですと……」
謝罪の後は今後の予定についての話になったのだが、それは全てルフランが対応してくれたのでクロムは横で頷くことしか出来なかった。
そして話が終わり、ギルドの外に出ると、ルフランは大きく伸びをした。
「んんっ……つっかれたぁ……本当は一緒にご飯でも行きたかったけど、今日はもう限界。明日行きましょ」
「そうしましょう」
「じゃあクロム、また明日ね」
「はい、また明日」
そう言ってルフランは足早に行ってしまった。
濃い一日に対してあっさりとした別れだったので少しもの寂しさを覚えるも、明日になればまた会えるのだから良いかと切り替え、クロムも帰ろうと歩き出す。
しかしその肩に手を置き、彼を引き留める者がいた。
「よう小僧。この後暇か?」
「え、あなたは……」
それは葉巻を咥え、不敵な笑みを浮かべる初老の男。
ギルドマスター・アルファンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます