噂話その1 「赤リボンの女の子」

ぱたん、と日記を閉じる。

なんの変哲もない普通の日記だった。

さっきまで変に緊張していたのが馬鹿らしくなってくる。

それよりも日記をどうしようか。

拾ってしまったからには、交番に届けるのが一番最適な方法なのだろうと思うのだが、いかんせん日記帳には何も書かれていない。

どうしようかと途方に暮れる僕の傍で、小学生達が鬼ごっこをし始めた。

じゃんけんで負けた子が数を数えている内に、何人かが、わー!と蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

それをぼんやりと見つめながら、アイスでも買おうかとベンチから立ち上がった。

その時だ。

ふっと視界に入るように“赤”が見えた。

と、同時に日記に書かれていた内容を思い出す。


『こうえんであそんでいたら、あかいリボンのおんなのこにあった』


赤いリボンの女の子。

似たような単語を最近聞いた覚えがあると頭の中を引っ掻き回して、僕は思わず「あっ」と声をあげて、慌てて視界に入った“赤”を探した。

それはこの前、学校で友達が言っていた怪談に似ていた。



『赤いリボンの女の子って知ってる?』

『何それ』

『なんかな、この前先輩が言ってたんだけど、そこの公園あるじゃん?公園のブランコがあるところにな、時々頭に赤いリボンつけた女の子の霊が出るらしいんだよ』

『ふーん、それで?』

『あ、お前信じてないな?』

『信じてるよ、多分』

『多分じゃねーか。まあいい。んで、出るらしいんだけど。何もしてこなかったらそれで無視していいんだよ。でもな、話しかけられたら、絶対に答えないといけねー言葉があるらしいんだ』

『へぇ…』

『それを最初に言わないと道連れにされるらしいぜ』

『…その言葉って?』

『その言葉はな_________』




「おにいさん」



背中に嫌な汗をかく。

恐る恐るベンチの横に視線をずらす。

普通は空白のあるその場所に一人の少女が立っていた。


「きょうはいいおてんきですね」


はてさて、その言葉はなんだっただろうか。

友人の言葉を思い出すも、記憶が途切れていて思出せない。

たらり、と冷や汗が流れる。

「…」

自分の呼吸音が遠く感じる。

なにか、なにか言わなければ。

ドッ、ドッ、と心臓が強く鼓動するのを手のひらで抑えながら日記の中身を思い出す。

この日記の持ち主はなんて言ってたっけ。


「おにいさん」


「きょうはいいおてんきですね」


ゾッとするほど冷たい、小さな手があり得ない力で左腕を掴む。

自分の左側を見たくない。

必死に日記を思い出した。


『きょうはとてもいいてんきだった』


『こうえんであそんでたら、あかいリボンのおんなのこにあった』


『おんなのこはわたしに「きょうはいいおてんきですね」といってくれたので』


『わたしが、』



「そ、その赤いリボン…!」


電撃が走ったように口が開く。

目をつむりながら、勢いに任せて大声で叫ぶように言葉を押し出した。


「そ、の赤いリボン、とても、素敵、だね」


女の子の手が離れる。

ぎゅっとつむっていた目を開くと、頭の上のリボンがゆらゆらと揺れているのが見えた。

それが徐々に消えていくのを息を殺して見守る。

声が、聞こえた。


「いのちびろいしたね」


周りの音が戻ってくる。

だが、僕の心臓はまだあの小さな手で掴まれているみたいにドクン、ドクンと不規則に鳴っていた。

今しがたの体験は嘘ではなかったと裏付けるみたいに。



結局日記は持って帰ることにした。

続きが気になっていたし、あんな体験をしてしまったから、日記を誰かに押し付けることは出来なかった。

友人にも言われているが僕はかなりのお人好しらしい。

古臭い日記帳をまじまじと見つめる。

これがほんとの持ち主の元に帰るまでは、僕が保管しなければならないと思うとあまり気乗りはしなかった。




◆噂話1「赤いリボンの女の子」危険度★

とある公園に出る女の子の霊の話。


昔、その公園の前に引っ越してきた家族がいた。

その家族はお父さん、お母さんと小さな女の子の3人家族だった。

小さな女の子はお母さんから貰った赤いリボンを大事にしていて、どこにいくにもそれをつけて出掛けた。

ある日、いつものように赤いリボンをつけようと思ったら風で道路に飛んでいってしまった。

慌てて女の子が追いかけると、そこに車が突っ込んできて女の子は轢かれて死んでしまった。

それから、女の子の前の公園には女の子の霊が出るという。

女の子に「今日はいいお天気ですね」と言われたら、一番最初に赤いリボンのことを褒めないといけない。

違う言葉を口にしてしまったら、女の子にあの世へと連れていかれるらしい。

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