第18話 英雄の介入

 帝都鎮圧が終わり、怪我人の収容や死体の回収なんかをしているとすっかり辺りも暗くなってしまい一日がかりの仕事だった。

 今回の件でこの内戦に大きく関わる存在になってしまったことで俺と朱里も正式に皇帝命令として内戦に参戦することになり、明日の朝に正式な命令書が出されることが決まった。

 いざ参戦!とは言えやる事は変わらないので一度屋敷に戻って、貴族派の領兵に空き巣に入られていないかを確認して眠りについた。

 翌朝、流石に緊張があったのかまだ暗いうちに目が覚めると朱音も起きてしまったらしくリビングで温めたミルクティーを飲んでいた。マジで紅茶に染まってるな……。


「おはよ」

「蒼も起きたんだ」

「早起きは優等生の基本だからな」


適当なことを言って朱里の隣に座り、たまには飲んでみるかと思いひっくり返されているティーカップにミルクティーをポットから注いだ。

 2人して無言のままチビチビ飲んでいると朱音がカップを机に置いてこちらに体ごと向けてきた。


「どした?」

「蒼は怖い?」


いたってシンプルな質問だが意外だった。

 彼女とはかなり長い付き合いだが何かをするときに”怖い”という感情を持つタイプではないと思っていた。


(まあ、実際に戦うとなると話が違うか)


少し考えて、俺もカップを置いて朱音の目を見た。


「正直に言ってあまり怖くない。俺の行動で死人が間違いなく出るだろうし最悪俺も死ぬかもしれない。でもそこに恐怖は無い」


自分で言っていて不思議になった。俺はここまで物事を達観するような人間では無かったと思う。

 互いに見つめ合う無言の時間が少し流れたが朱音もこちらの目を見たまま話し始めた。


「私も自分がどうなろうが、この国の人がどうなろうがあまり関係ない。でも、それがちょっと怖い」


少し目を逸らして一息ついてさらにつづけた。


「蒼が傷つくのは怖い。でもそれ以外が怖くないことが怖い。今までの自分が今居ない気がするのが怖い……」

「……」


きっと同じ気持ちなんだろう。

 異世界という非日常的な世界で唯一日常的な存在を失う、壊される。それが自分や他人の死を越えて嫌なんだろう。不思議な感覚だ。


「俺も朱音が傷つくのは怖い。もし朱音が殺されようものなら殺した奴は地の果てまで追いつめて生まれてきたことを後悔させながら死ぬまで常に苦痛を与える」

「私もそうする」


物騒な考えで共感してしまったがちょっと嬉しい。


 「今は非日常だ。そんな場所に英雄なんて持ち上げられて放り込まれてる。自分が自分でなくなる感覚は気持ち悪いけど、それも今だけの感覚だと思う」


言っていることは滅茶苦茶かもしれないけどきっとこの感覚も理解してもらえると思う。


「朱音はやりたいことをすればいい。その結果として何が起こっても朱音は朱音のままだし、朱音のままでいられるように俺がいる」

「うん。ありがと。ちょっと気が晴れたからもう少し寝てくるね」

「うい、おやすみ」


俺が起きてきたときより少しは気が晴れたということで、かなり安心した。

 自分の中でもモヤモヤの落としどころが決まったのか頭が軽くなるような感じがした。

 気を抜くと眠たくなってきたので我慢せず大人しく部屋に戻って朱音と同じくもうひと眠りすることにした。

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