第10話 恩の返し方
アリアノールさんの策に見事にはまり物々しい名前の肩書を貰って数日。
たまに来る制服組の人に俺の知っている限りのことでの助言をさせて貰ったりしていた。
思っていたのとは違う仕事だったが何もしていないよりは心が楽だなあなんて考えながら昨日アレスさんから送られてきた大量の書類を眺めていた。
「……要塞ねえ」
一通り読んだ感じ、帝国軍が所有する要塞を新しく帝国北部に建設したいらしく、それについての意見を聞きたい的なことが書いてあった。
建設理由は『大領地をつなぐ幹線道路での安全確保のため』と書かれていたが、これはおそらく建前で本当は貴族派の交流を制限したいのだろう。
面白そうだったので「直接会おうよ」と一筆したためて軍務院に送った。
直後に皇帝派の肩を持つのかと反感を買うかもな、と思ったが厨二心の高ぶりに勝てなかったので気にしないことにした。
翌日、手紙を読んだのであろうアレスさんがやって来た。
ホロズ・アスラン公爵を連れて。
「初めまして蒼さん。お会いできて光栄だ」
「こちらこそわざわざご足労いただきありがとうございます」
ホロズ閣下は帝国南部の貴族たちのボスで、皇帝派を支える人物でもある。
ちなみに北部ではエヴェラルド閣下が幅を利かせているので北部は貴族派が多い、南部では皇帝派が多いという状況もある。
南部のボスも蒼&朱音の勧誘についてきたのかなと思いながらも二人を客間に通し、要塞建設案について話すことにした。
「――それで蒼さんのお考えは?」
「要塞については建てればいいと思います」
「蒼さんは軍務院の考えた案に補足は無いのですか」
「使用用途によって規模も変わるでしょうから一概にこれがいいと言うのは難しいかと」
少し意地悪な言い方をしてしまった。
要塞の使用用途は貰った案に書いてあるし、裏の目的も何となくわかる。
でも、それを直接聞いていたかいないかで俺と朱音のこの国での中立性が変わってくる。
俺がこれから起こるであろう内戦に巻き込まれて死のうがどうでもいいが、朱音が自分の意思ではなく俺に巻き込まれることだけは絶対にいやなのだ。
「……蒼さんは陛下に恩は無いのですか」
「恩はありますとも。ですが、その恩は組織に返すものではなく、個人に返すものだと考えてもいます」
ホロズ閣下は前のめりだったが、ソファーに深く座り直し背もたれに体重を預け直した。
「私は貴族であるならば皇帝家に、帝国に恩があり、それは忠誠に変えて返すものだと考えています。ですから帝国に仇なすウジ虫共には死してその罪を償わせると父祖に誓っています」
「立派な考えだと思います。ですが私とは違う意見だ」
なぜなら俺は部外者で、この国に忠義を感じているわけではないのだから。
ホロズ閣下は一息つくと席を立ちこちらに背を向けた。
「後はお二人で案を詰めてください。またお会いしましょう」
意見が似ているが故に少し気まずい感じになってしまったがこちらの考えは伝わったと思う。
閣下が帰ってからアレスさんと話し合った結果、要塞はこの世界初の星型要塞になる事になった。
ちなみに火砲が無いこの世界で星形がどれくらい効果的なのかは分かりません!
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