第9話 魔術師の仕事

 この世界での暮らしも安定して生活できるようになってからしばらくして、いつも通り白湯をチビチビ飲みながら裏庭の植物を眺めているときにふと気がついてしまった。


「……俺、何もして無くね?」


毎日この世界について知ろうと色々していたのでそこそこ動いている感があったのだが、最近はある程度知識も得たうえに使用人さん達が有能過ぎて俺が出る幕が無い。結果として何から何までそろえてもらったうえに何もしないという究極のヒモ生活を送っているのだ。

 これはまずいと思ったので正装(貰い物)に着替えて宮殿に行って仕事が無いかを聞いてみた。


「蒼には近衛の魔導士たちがすでに世話になっていると聞いているが?」

「世話になってるのはこっちです」


”色々していた”と言うのは近衛騎士団の魔導士に魔法のいろはを教えてもらうと言うのも含まれており、おかげで人並み以上に魔法が使えるようになった。

 ちなみに宝物庫から持ち出した万年筆みたいな奴は魔力をインクにして文字を書くという物だそうでマジでただのペンです。

 『魔法を付与して~』とか『呪文を空中に書いて~』とかは一切ない。

 強いて言うならば、これで書いたものはとある本に保存されて永遠に残るらしい。

 ちなみにその本も宝物庫に収められているらしくて、本来はセットで使う物らしい。今度絶対にその本も貰わなくてはいけないと思っています。


 「そうは言ってもなあ、君も朱音君の様に白百合に入るか?」

「百合の間に挟まった男は死ぬというジンクスがあるので遠慮します」


朱音は度々訪問していたアンナ様に誘われて白百合騎士団に入団したが俺はそういう訳にもいかない。なぜなら男だから。

 2人して頭を悩ませているとアリアノールさんに帝国軍務院のアレス・スピネージ大将がやって来た。


「お話しの最中、申し訳ございません」

「いえいえ、下がりましょうか?」

「いや、蒼殿に用がありまして」


そう言うとアレスさんは一枚の紙を渡してきた。


「拝見します」


 アリアノールさんとのお話の最中に来たぐらいだからよっぽど重要な話なんだろうなと思って見てみると、『軍務院特別顧問任命書』と書いてあった。


(見なかったことにしてえ……)


絶対面倒くさい職でしょ、特別顧問とか。

 しかも○○部とか書いてないから、何をするにしても意見を求められる可能性があるってことでしょ?


「ぜひ受けていただきたいのですが」

「良かったではないか、求めていた仕事だ」

「ソウデスネ」


コレジャナイ感がプンプンするがこれ以外に提案されているのが百合の間に挟まるという過酷すぎる仕事なので選択肢の中でベターを選ぶことにした。


「……喜んで拝命いたします」

「ありがとうございます!」


 後日、今回の任命書はアリアノールさんが用意したもので皇帝の先を読む力に若干ビビったのは別のお話し。

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