第8話 老竜の古傷
「お邪魔しますね」
「ようこそアンナ様に白百合の皆さま。ごゆっくりして行ってください」
今回はアンナ様を含めて6人がやって来た。
近くにいた使用人さんに目配せでお茶を持ってくるように伝えると一礼して厨房の方に歩いて行った。……超有能だよなあ。
お茶もやって来て一息つくと今度は俺を含んでおしゃべりタイムが始まった。
まあ我が家ですることも特にないので喜んで話し相手になろうじゃないか!
「蒼様は紅茶は飲まれないんですか?」
適当に相槌を打ったり、「へえ」とか言って話に参加している雰囲気を出していると、それがバレたのか白百合の一人ミシェルさんがキラーパスを出してきた。
「紅茶はあまり得意じゃなくて」
「蒼は甘いものが好きなんですよ。子供舌だから」
「一言多いな」
つい普段通りの反応をしてしまってハッとアンナ様の方を向くと愉快そうに笑っていた。
「私にも朱音と話すときの様にしてくれていいのに」
「それは流石に……」
朱音は普通にため口だが、俺にそんな度胸は無い。これからも敬語で行かせてもらう!
しばらく談笑していると使用人の一人が入ってきた。
「蒼様。エヴェラルド・ミナーダク公爵様がいらっしゃいましたが」
来客があるがどうする?と聞きに来たらしい。
客間に通すように伝えると使用人は一礼して戻っていった。
「そのようなのでしばらく席を外させていただきます」
「お気になさらず」
本当はあまり行きたくないのだが朱音に対応させるわけにもいかないのでしぶしぶ客間に足を運んだ。
「お待たせしましたエヴェラルド閣下」
「いやいや、こちらが急に来たんだ。先客がいたのですかな?」
「皇女殿下と白百合騎士団の方々が」
「なるほど。殿下のおままごとに付き合わされて大変ですな」
最期の言葉には笑顔で返すだけにして閣下の前に自分も座った。
最後の悩みの種は”貴族の問題”である。
そもそもこの国は各領地を治めていた地主が爵位を授かる代わりに皇帝家の下に集まって大きくなっていった国家なのだが、そんな建国秘話も昔の話。
今では爵位は皇帝家から貰ったものではなく、親から譲り受けたもの。領地は先祖代々受け継がれてきたものという風に解釈が変わりつつあり、帝国内は貴族派と皇帝派に分かれており事実上の政治的内紛といった感じだ。
そんな大層な問題がどうして俺たちに関係してくるのかと言うと一つはアンナ様と関わりが深いから。
そしてもう一つはアリアノールさんの計らいで俺と朱音は準公爵位を授かったので、一代限りだが公爵相当の発言力を持ってしまったのだ。
話を今に戻すとエヴェラルド閣下は貴族派の中でも中心的な人物でそんな人が我が家にやって来てすることなんてただ一つ。俺か朱音の勧誘である。
「蒼殿は最近は何をされているのですか?」
「最近は魔法の訓練に没頭しておりますね」
「そういえば噂で聞きましたな。蒼の魔術師なんて呼ばれるほど腕が立つそうではないですか」
「噂は人を介するごとに大きくなっていきますからね。そんな大層な者ではありませんよ」
「ご謙遜なさるな。ぜひうちの領兵に稽古をつけていただきたいものだ」
「ハハハ、ではお声がけを待っていましょうかね」
「そうしてくだされ」
大貴族と話すなんて内心ビクビクだが毅然とした対応が求められるだろうからなるべく堂々と話す。
こちらでもしばらくお話をしてエヴェラルド閣下は席を立った。
「とても楽しい時間でした。またよろしければ」
「ぜひ何時でもいらしてください」
閣下を見送ると疲れがドッと押し寄せてきたので玄関正面の階段に腰かけた。
「大丈夫ですか?」
「ターシャさんですか。大丈夫です、ちょっと疲れただけです」
お花でも摘みに行く途中だったのか部屋を出ていた白百合のターシャさんに心配されてしまった。
『貴族がこんなに大変だとは思わなかったなあ
あおい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます