第6話 帝国の利益

 宝物庫を出るとアリアノールさんが「会わせたい子がいる」とついてくるように言ってきたので再び子犬よろしく後ろを歩いて行った。


 (誰と会うんだろう?)


宮殿内で会える人物で、俺たちのような一般人と会ってくれる人はどんな人だろうかと色々考えたが、そもそも皇帝自ら面会してくれているので基本的に誰とでも会う可能性が思考の片隅に浮上したので考えるのやめた。

 しばらく帝国のことだったり、この世界全般のことだったりを説明されながら歩いていると複数人の掛け声と金属同士がぶつかり合う音、というか剣戟の音(リアルで聞いたことは無いけどきっとそう)が聞こえてきた。

 会わせたい人は近衛騎士みたいな人達なんだなあ、と思いながら音の方に行ってみると中庭では予想通り、軽装ではあるが鎧をつけて剣をぶつけ合う人たちがいた。

 予想と違ったのは実際に剣を振っているのは全員俺たちと同じくらいの歳の女性で、ごつい金属鎧を着けている大柄の男性が腕を組みながら眺めていたということ。

 てっきり男性割合の方が多いものだと思っていた。


 「精が出るな。アンナ」


アリアノールさんが自身と同じ金髪の女性に声をかけると訓練(?)は一時的に止まって全員こちらを向いた。


「わざわざ来ていただいてありがとうございます、お父様。そちらのお二人は?」

(は?お父様?)


 アリアノールさんがお父様。

 つまり、皇帝がお父さん。

 よって、皇帝の娘さん。


「……ゑ?皇女?」

「2人とも、紹介しよう。私の娘、アンナ・フォン・レンシア。蒼の言う通り皇女だ」


あまりの衝撃に思考が口から洩れてしまい焦ったが、そんなこと気にも留めずにアンナさんはこちらに向き直って深々と頭を下げた。


(ひいぃぃぃ!皇女が頭下げてるぅぅぅ!)

「初めまして、アンナ・フォン・レンシアと申します。蒼様と……」

「…はっ!か、神守朱音と言います」

「朱音様。よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします!」


内心ビクビクで腰が90度になるように深々と礼を返すと、朱音からは再び変人を見る目で見られアリアノールさんはケラケラと笑われた。


「蒼、そんなに固くしなくてもよい。アンナには友人として合わせているのだから」

「ユウジン?」

「誰なのユウジン」


ユウジンを漢字に変換しないことで敢えて理解しないようにしたのに朱音のキレのあるツッコミによってユウジンは友人に強制変換されてしまった。

 どうして皇女と会わせられたのかは理解できても、なぜ俺たちなのかがちっとも理解できないので最後の抵抗をしようとアリアノールさんに目線を送ると宝物庫に入る事を強制された時と同じ笑みを浮かべながらまっすぐにこちらを見ていたのであきらめることにした。


「まあすぐに仲良くなれとは言えないがアンナとは仲良くやってほしい。それが”こちらの考え”につながるからな」

(俺たちに宝物庫の品を持たせる理由にもなった考えか……)


どんな考えを持っているのかは教えるつもりはないといった雰囲気だから直接は知る事が出来ないけど、皇女様の周りにいれば自然と分かってくることかもしれない。

 人が真面目に警戒しているというのに朱音はすでに皇女様にグイグイ行く感じだし、もう後戻りはできそうにない。


「……それにしても。俺じゃあ力不足じゃねえ?」


一般男子高校生のつぶやきは宮殿の中庭から見える青空に吸われて行ってしまった。

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