第5話 英雄の品々
宝物庫に入って改めて品々を眺めていると、どこかの博物館にでも来たんじゃないかと錯覚するほどの物であるとひしひしと感じた。
『あげるよ』と言われて、その理由までしっかりと説明されてもなお、騙されているんじゃないかと考えてしまう。
ただ、朱音は俺よりは警戒していないようで触れないように手を後ろで組みながら品定めをしているが、その目は”貴重な物を見る”というよりも”カタログからプレゼントを選ぶ”という感じだ。
朱音を見ていると警戒心むき出しでおどおどするのも失礼な気がしてきたので俺も気持ちを入れ替えて品定めを始めた。
「――まあ、これ系になるよな」
「剣。槍。斧……。カッコいいだもん」
しばらく宝物庫の中をウロウロしていたが俺も朱音も行きついた先は武器がまとめられているエリアだった。
武器と言うのは心が弾む。
非日常感を味わうには最適な物だろうし、異世界と言えば魔法と剣みたいなところがあるから正直に言うとこれ一択みたいなところはあった。
「どれがいいだろうね」
「やっぱり男は黙って直剣でしょう」
ちょっとカッコつけながら目の前にあった剣を手に取ろうとするとギリギリのところで何かにはじかれた。
「痛い⁉」
「何してんの?」
「そんな目で見ないでくれる?」
ちゃんと指が付いてるかを確認していると朱音は俺のことを冷ややかな目で見ていた。悪いことしてないのに悪いことしたみたいな感じになるから本当にその目をやめていただきたい。
あきれた様子で朱音が剣に手を伸ばすと、
「軽いね」
特に何事もなく手に取ることが出来た。
「聖剣よろしく人を選ぶの?」
「いえ、そんなことは無いはずなのですが」
腕が弾き飛ばされたのに驚いていたのは俺だけじゃなくて朱音を除く全員が理解できないという感じだ。まあ、朱音も理解できないって感じだけどベクトルが血がk=う気がするのでノーカウントだ。
「じゃあこっちは?」
朱音が今度は槍をこちらに向けてきたので先ほどと同じようにつかもうとすると、
「痛いですけど⁉」
「剣も槍もダメなの……?」
事実だけを見るとダメなのだろう。
その後も短剣やら斧やらでも試したが、超常的な力でどれもつかむことすらできなかった。
「――何故……」
「武器は諦めたら?」
「うん。そうする」
指は痛いし、朱音からは冷たい目で見られるしで完全に心が折れたのでその場を離れて再び物色を始めると、かわいそうに思ってくれたのかレイケムさんが万年筆風の物を持って手招きしてくれた。
「それはなんですか?」
「これは魔法筆と呼ばれるもので、魔法の能力を別の何かに刻む事の出来るものです」
それを聞いた瞬間、折れていた心が修復される音がした。
そうだ。ここは異世界だ。剣がだめなら魔法があるじゃないか。と。
恐る恐るレイケムさんからペンを受け取ると、今回はしっかりと手に収まり、むしろ今までもこれを使っていたかの様な感じがした。
「何それー」
感動のあまり目を閉じて天を仰いでいると武器を選び終えた朱音がやって来た。
「これは魔法の道具らしい。それは?」
「これはねえ、剣の柄の部分だけで、抜くと自分の思い描いた刃が出てくるんだってー。それも見してよ」
すげえカッコいいじゃんと思ったのだが、なるべく顔に出さないように我慢しながらペンを渡すと、朱音の手は俺と同じように弾き飛ばされた。
「痛いんだけど⁉」
「……ククク、ハハハ!お前も触れないものがあるとはなあ!ほら、変人を見るような目をしてごめんなさいはどうした!」
「うるさい!切り刻むよ!」
「それはやめてくださいお願いします」
あまりのうれしさに調子に乗って朱音を煽ったら切り刻む宣言されたので大人しくすることにした。
それぞれ選んだものを宝物庫から持ちだして自分の物にした。
結局なぜ触れない物があるのかは分からなかったが朱音の冷ややかな目を止めさせることが出来たのでOKでしょう!
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