第4話 宝物庫

 アリアノールさんの後ろをついて歩くこと数分後。重厚な扉を兵士が守っている場所まで来た。

 大人二人掛でようやく開けられる扉の向こうには宝石類や煌びやかな剣や槍などの武器、ルネサンス期を彷彿とさせるリアルな絵や彫像が収められていた。


「ここが宝物庫。帝国文化の中心地であり、皇帝家の権威の象徴ともいえる空間だ」

「すごいですね……」


綺麗に並べられた芸術品の数々に圧倒されていると朱音も同様に目を輝かせていた。


「――あの剣カッコいい……」

「あの、それどちらかと言えば僕のセリフじゃあないですかね?」

「『カッコいいと言うのが女の子らしくない』は団体に怒られるわよ」

「……確かに?」


一体何の団体に怒られるのかは分からないが確かに怒られそうな雰囲気を感じたため口を閉じることにした。


 「さて二人とも、どれが欲しいかな?」

「「ゑ?」」

「好きな物を一つだけあげよう」


この世界に転移させられた時とは違う理由で頭がショートした。

 説明を聞く限りここにあるのは国宝みたいなものだろう。

 それはそれは大事なもので、盗まれようものなら国を挙げて取り返そうとする品だろう。


(それをどこの馬の骨かも分からない奴に渡すか?)


自分たちを拾ってくれた人たちに抱くべきではない感情なのだろうけどどこか裏があるように思えてしまう。

 そんな考えが顔に出てしまっていたのかアリアノールさんは優しい笑みを浮かべて頭に手を置いた。


「そう心配しなくてもいい。確かにこちらにも考えがある。だがそれよりも君達の生活を奪ってしまったことに対する謝罪が大きい」

「でも、私たちをこの世界に呼んだのは月影教団っていう奴らなんですよね?」


朱音がもっともな質問をするとアリアノールさんは俺の頭から手を離し首を振った。


「確かにそうだが、我々は奴らの動きを把握していた。何をしようとしているかも理解していた。そのうえで君達よりも奴らの情報を得ることを選んだのだ」


 実際問題、見たことも無い異世界人の命よりも犯人確保の手がかりの方を選ぶのが適切な判断だと思う。

 それに対する謝罪の心があるなんて心の綺麗な為政者なんだなあと思う。

 思うが、


「にしても豪華すぎませんか……」


流石に「犯人逮捕のために見殺しする形になってごめんなさい。お詫びに国宝を1つだけあげます」とはならんやろ。


 「確かに豪華な品だ。だがこちらにも考えがあると言っただろう?」


アリアノールさんは笑顔のままだが先ほどの優しい笑みではなく有無を言わさない圧のある笑顔を向けてきた。

 そんな圧をかけられてはどうすることもできないので朱音と一緒に宝物庫に入った。

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