第3話 月影教団
煌びやかな建物内を案内され、流れるように個室に入れられた。
部屋の中にも素人目で見ても「高いんだろうなぁ」と思うような家具や雑貨が並べられており、かなりの時間2人で待たされたが苦では無かった。
興味津々に雑貨をウロウロしながら眺めている朱音をキッズスペースで遊ぶ我が子を見ている親になり切って眺めていると、部屋の外から数人分の足音が聞こえて扉の向こう側で止まった。
「お待たせしました。アリアノール陛下がご到着いたしました」
俺たちをこの部屋に案内したロングマントの男性がノックの後にすると扉が開けられ、宝石がちりばめられた杖を持った初老の男性が入ってきた。
アリアノールさんは俺の向かいに座ると杖を控えていたメイドさんに渡して優しい目でこちらを見た。
「ようこそ英雄たちよ。私がアリアノール・フォン・レンシアだ。そなたらの名前を教えてくれるか」
そういえば俺も朱音も自己紹介を一切してなかったな。
「自分は神崎蒼。こちらが神守朱音です。お招きいただき感謝します、陛下」
自分の持ちうる語彙の中一番丁寧であろう言葉を選んで名前を伝えるとアリアノールさんは目をつぶって右手を振った。
「そんな堅苦しくしなくてもよい。蒼に朱音か。娘と同じぐらいの歳だというのに……」
優しそうな雰囲気は一変し、沸々と燃える怒りをあらわにしてた。
メイドさんから水を飲むように勧められたアリアノールさんは一息ついて怒りを鎮めた。
「――すまない。君達について我々が知っている限りの情報を渡そう。ここに呼んだのはそのためだ」
そう言ってここまで連れて来てくれたマントの男性に目配せすると男性は軽く一礼した後にこちらに向き直った。
「わたくしはレイケムと申します。帝国軍治安維持部隊で現在、月影教団を名乗る組織を追いかけております。今回お二人を召喚したのはその教団だと思われます」
「月影教団の目的って何なんでしょうか?」
朱音が俺の気持ちを代弁するかのような質問をしてくれたがレイケムさんは頭を横に振った。
「彼らの目的は一切分かりません。唯一分かることは教団はお二人の様に異世界から人を連れてくる実験を行っているということだけです」
「帝国内でも実験を行っていて、今までは失敗続きだったのだが今回は上手くいった。それが君達だと考えている」
「失敗するとどうなっていたんですか?」
アリアノールさんに聞くが、一切の反応をくれなかった。きっと知らない方が良いことなのだろう。
「これが教団について分かっていることです。これ以外は何も分からない。どこで何を目的に動いているのかすら分からない。そんな状態です」
レイケムさんの端的なまとめで改めて何も分からないが分かったところでアリアノールさんが立ち上がり、微笑んだ。
「つまらん話はそれぐらいでいいだろう。せっかくだから君達にプレゼントがある」
そう言うと首をくいっと扉に傾けて”ついて来い”と伝えてきた。
(何そのしぐさ、カッコいい!)
今は何も考えなくてもいいかと思考をいったん横に置いて、子犬がごとくアリアノールさんについて行った。
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