第2話 カダスモラ宮殿

 ロングマントを纏った目の前の人は俺が理解できる言葉を口にし、さらに俺たちのことを”英雄”と称した。

 やはり何が起きているのか理解できなかったが、一方的な呼びかけによって若干思考が安定してきた。


「こ、ここはどこ何ですか」

「この部屋はオーレンシア帝国の帝都の地下教会です」


男性の声で質問に答えた人はフードを脱ぎ、再び膝を突いた。

 正直に言って早々にこの部屋から逃げ出したいのは山々なのだが、いつもは俺よりも堂々としている朱音が完全に怯えていて、先ほどから俺の右腕の袖をつかんだまま小刻みに震えてしまっているのだ。


(どうする?)


自問自答をしようとするがそれは無意味だと直感的に感じる。

 色々な行動を自分に提案しても帰ってくる答えは「無理」の2文字だけだろう。

 どうしようもなく悶々としていると再び男の人は顔を上げた。


「色々とご質問があるとは思いますがひとまず我々を信じ、ついてきてはくださいませんか。会っていただきたい方がおりますので」

「……分かりました。案内してください」


どこの誰なのかも分からない人について行く危険性は今時小学生でも熟知しているだろうがこういう特殊な場面では例外だろうと自分を説得させてついて行くことにした。


「朱音。歩けるか?」

「う、ん。大丈夫。ごめん」

「謝る必要はないよ。行こうか」


かつて見たことが無いほどに震えている朱音に驚いたが、必要以上に話しかけない方が今はいい気がしたため、軽く手を握ってロングマント集団の後をついて行った。

 地上に出る階段を上った先には無人の酒場があり、その更に外には中が見えないようにカーテンが閉められた馬車があった。


「要人移動用みたいだな」

「うん。立派な馬車だね……」

「みたいではなくお二人は要人ですよ。さあ、お乗りください」


外に出てきて朱音も落ち着いてきたのか顔色も良くなっている気がする。

 馬車に乗ってしばらく街並みをカーテンの隙間から眺めていると建物は豪華な作りに変わっていき、門を通り抜けたところで広い空間に出た。


(門毎に区分けしてるんだろうけど、このエリアはよっぽどの重鎮が暮らしてるんだろうな)


ちらほらと庭の手入れをしているであろう人影を見ながらしばらく進むと馬車は止まり、扉が開けられた。

 目に飛び込んできたのは広大かつ美しい手入れの行き届いた庭だった。


 「ようこそカダスモラ宮殿へ。中で陛下がお待ちです」


 かなりの高さがある城壁に囲まれた内部が全て宮殿ならば、帝国も相当大きな国なんだろうなと考えながら、案内されるがまま歩いて行った。

 朱音もある程度回復したのか宮殿内の豪華な装飾品に目を輝かせながら歩いていた。まだ俺を手を握っているのは気になったが手を放してはぐれられても困るのでちゃんと握っておくことにした。

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