2021_0611

授業が終わる。

移動教室の帰り、また一人なのか。

六月に入ったというのに一向にあの女の子に話しかけることは出来ず、もやもやしている。

その時、あの女の子が来た。


「一緒に教室行こうよ」


私は、ちょっと、どころかかなりうれしくて、前のめりになりながら、うんと元気よく答えた。


私は面白い人間というわけではないので、話を振ることができず、無言の時間が続いてしまったらどうしようと思ったがそうでもなかった。


まず、階段に登りながら続いたのはかわいい合戦だった。

「ねぇ、ほんとにかわいい!」

「いや私はそんなでもないよ、むしろ」

「いやいや」


この女の子は私のご機嫌取りなのか?

確かに私は朝、起きてから髪の毛をきちんとセットして、服もかわいいものを選んでいる。

授業と授業の間の5分休憩はトイレに行って前髪が崩れていないか確認する。

だから…何もしていないよりかはマシであろう。


ただ、私は自分に自信がない。だからこの女の子の言うことが信用ならないのだ。

「お世辞やめてよ!」

「お世辞じゃなくて本当なんだよ?逆にそっちこそお世辞じゃん」

「違うよ…」


うれしいけど、苦しい。この状況を素直に喜べなくて、苦しい。


「また今度一緒に教室行こうよ!あと、いつか一緒に帰りたいなぁ」


だけれども、ずっと話してみたかった女の子だから、断ることなんてできなくて、単純に友達と呼べる人間ができそうなような気がして、

きっと歪んでいないであろう、純粋な笑顔で「うん」と答えた。

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