信号機の恩返し ⁂
ドアを開けると信号機が立っていた。
「昨日守ってもらった信号です。恩返しにきました」
「恩返し?信号ぐらい誰だって守るだろ」
「それがそうでもなくて、私の存在感が薄いんですかね。みんな無視して突っ走ってしまうのです」
さて恩返しと言われても、いったい何をして貰えばいいのか。
玄関で揉めていると、居間から妻がひょいと顔を出した。
「どうしたの?」
僕と信号機の説明を聞いた妻はなにか思いついたようだ。
「ちょうどいいから、あの魔の交差点に立ってもらったらどうかしら」
「あれか」
うちの近所に見通しがいいくせにやたら交通事故が起こる交差点があり、近隣の者たちは魔の交差点と呼んでいた。
「ちょうどいい、きみそこに立ってくれないか」
その日から信号機は魔の交差点に立った。
一週間たったある日、急ブレーキと衝撃音が聞こえて外に出た。またしても事故だった。
そうだった。あいつは守ってもらえない信号機だった。
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