きみについて行く    ♡

 小さいころうちは貧乏だった。僕は犬が欲しくて想像のなかで犬を飼った。散歩している犬を観察し、触らせてもらい、考えているうちにどんどん本物らしくなった。耳はピンと立ち、しっぽはふさふさ、毛はザラリとしていて、背に手を当てると小刻みに震えている。僕が退屈していると散歩したそうにリードをくわえてくる。

 僕は犬と散歩しているつもりで、想像のなかのリードを手にした。右手をギュッと握りしめ外を走り回った。


 5年生になるころにはうちも人並みになり、誕生日に自転車をもらった。友達と乗り回して遊ぶうち、僕は犬のことを忘れてしまった。


 大人になって娘ができた。歩き始めた娘は月に降り立った人類みたいだ。歩いては何かに引っ張られるように尻もちをつき、そのたびに振り返っては笑顔を見せる。

 よいしょと立ち上がると、にぎりしめた右手をクイっと引く。

 そうか、お前はずっとここにいたんだな。

 娘がヨタヨタ歩く後ろに、なつかしいあいつが見えた。

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