金剛ダブルス ♧
近所の霊験あらたかな寺の山門に二体の金剛力士がいる。
今では人間そのものが
念仏を唱えながら進む者。
ことごとく
今日こそ参拝する。俺は山門に足を踏み入れる。
目ざとく俺を見つけた阿形像が口を開く。『あ』
俺は阿形像を見据えながら言う。「い」
振り向くと吽形像が口を開く。『う』
俺は間髪入れず口を挟む。
「えおかきくけこ…」
五十音を唱える俺につられ吽形像の口が【う】のまま止まる。やはり【ん】を言い終えるまで動けないのだ。
「…なにぬねの…」
俺はよどみなく口を動かしつつ門を抜ける。境内だ。もう大丈夫。
「…ゆえよわを」
後ろで小さな声がした。
『ん』
振り向くと二体の金剛力士像が、悔しそうにこっちを見ていた。
帰りは裏門から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます