素晴らしい青      ⌘

 そうだ、素晴らしい青の話をしよう。

 空?海?確かに俺の故郷の海は美しい。でも青というより緑だな。深い緑。その中に少しだけ青がひらめく。

 俺にとっての素晴らしい青は、お袋のピアスだ。濃い青の小さなカケラ。石はサファイアだって言ってたが、本当かどうか。 

 ろくでなしの親父が唯一くれたものだって、いつも身に着けてた。


 

 ……すまない、意識が飛んでた。悪い。なんの話だっけ。

 そうそう青。素晴らしい青。

 そうだな、とっておきのがあるよ。ラブレターさ。初めて貰ったラブレター、透き通った青い便箋に薄く雲が書かれてて。可愛い字だったよ。インクも青で。彼女は、青が好きだったんだな。髪には、いつも青いリボンだった。今思い出したよ。



 ……あとどのくらいだ?

 話すと酸素が減るのは知ってる。

 でも最後の瞬間まで正気でいたいんだ。

 素晴らしい青。今俺が見ているのがそうだ。はは。地球は美しいな。どんどん小さくなって、もうお袋のピアスみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る