物忘られ ♧
このところどうもボンヤリしているようで、しょっちゅう物を忘れる。傘や本、上着に鞄、財布に携帯、果ては乗って来た自転車を忘れて歩いて帰宅だ。さすがに自分が心配になって医者を訪ねた。
「物忘られですね」
さまざまな検査のあと医者は言った。
「まだ物忘れ程度ってことですか?」
「物忘れではありません。物忘られ、つまり物にあなたが忘れられているんです」
「はい?」
「気をつけてくださいね。症状が進むとそのうち靴とかパンツにも忘れられてしまいますから」
「それは…」
想像したくない。
「それで先生、どうすればいいんですか?薬で治りますか?」
「まぁお薬も出しますけど、いちばんいいのは話すことですね」
「話す?自転車と」
「やはり存在を覚えてもらうには声を出さないと」
そんなわけで、ぶつぶついろいろな物に話しかけている人を見ても不審に思わないで欲しい。
誰だって忘れられたくはないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます