400字物語

工房ナカムラ

お譲りしますよ     ♤

 昨夜から熱が下がらず、金曜の朝病院に行った。診察時間前だというのに、もう10人ほど待合室に座っている。受付していると最初のひとりが呼ばれ、続いてふたりめが呼ばれた。このペースなら仕事に遅れずにすむと思っていると、老婆が近づいてきた。

「私次の次なんだけど、お譲りしますよ」

 一度は断ったものの「私は暇だもの。あなたスーツだしお仕事あるんでしょう?」

と言われ先にさせてもらった。

 診察を受けると思いのほか病状が悪いようで、その日のうちに入院することになった。


「病院の入院セット頼んだから、寝巻きはそれ使ってね」

 タオル類を片付けながら妻が言った。

「明日から詳しく検査するそうよ」


 妻が帰ると手持ちぶさたで売店に向かった。店員が顔見知りらしい客と話している。

「この病院、13日の金曜日に診察室に4番目に呼ばれた人は、1ヶ月以内に亡くなるジンクスがあるんだって」


 次の次。まさか。いやまさか。

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