第3章

3-1


 ドラゴン達の住む結界の横に小屋が完成したのは、レイラがたおれて五日後のことだった。

 元々レイラとアールが暮らすためのものなので部屋は一つだけ。キッチン、テーブル、、作業用の机、ベッド、などなど、暮らすのに必要なものはリッツが手配してくれた。

「今日からここが私達の家ですよ、アール」

「ピィィ!」

 においをいでは走り回り、何か見つければ鳴いてレイラに報告する。そんなアールを微笑ほほえましく見守りながら、レイラはかえった。

「団長、今日からよろしくお願いします」

 かべぎわには、げんそうな表情のクラウスが立っている。

 すったもんだはあったものの──結局彼も、ここでいっしょに暮らすことになったのだ。

「窓を大きめに作ってくださいとたのんでおいてよかったです。ここからなら、外のドラゴン達の様子もよく見えます。アールも気に入ってくれたようで」

「……お前はいいのか?」

「え?」

 外をながめていたレイラへ、足早にクラウスが近づいてきた。

 かくするようにかべに手をついたクラウスは、間近でレイラの顔をのぞき込んでくる。

「不安にならないのか? 一応、俺は男でお前は女だぞ?」

 冷たく見下ろしてくるクラウスを、レイラも見つめ返す。

「団長は、私を見ているのですか?」

 たんたんと問いかければ、ぎょっとしたようにクラウスの目が見開いた。

ちがう!」

「であれば、私は特に問題ありません。気にされるようでしたら、団長は無理にここに住まなくても今まで通り騎士館で構いませんが……」

「それでまた倒れたらどうする気だ!」

 おこっているからなのか、クラウスのほおうっすらと赤くなっている。

「おづかい、感謝いたします」

「……そういうことじゃない」

 あきれたようにつぶやいたクラウスは、とつじょレイラのあごに指をかけた。上向きに角度を変えられて、いきからきょにいるクラウスにレイラは息をむ。

「団長、近い、です」

 ごこが悪くて顔をらしたいのに、クラウスの手がそれを許してくれない。

 レイラの意思と関係ないところで勝手にどうが速くなる。知らない感覚におそわれて、彼のひとみを見つめ返せなくなった。

 小さく、クラウスがくちびるはしげる。

「へえ。そういう顔もするんだな」

「っ……」

 自分が一体どんな顔をしているのか想像すらできなくて、頰が熱くなった。にくしょくじゅうにらまれたものはこんな気分なのかもしれない。げるようにぎゅっと目をつぶる。

 ──と。

おくれてごめーん!」

 とびらの開く音と、アノンの声が聞こえてきた。

「用事終わったから、ドラゴンのとこ行け……る、けど……」

 悪びれることなく笑いながら小屋に入ってきたアノンは、まるでキス直前の二人の姿に、ぱちぱちと目をまばたかせる。

「ごめん! おじゃむしてっ退たいするわ!」

 そのまま来たときと同じ勢いで、彼は外に出て扉を閉めた。

 二人はぽかんとそれを見送り──先に我に返ったのはクラウスだ。

「違う!」

 レイラから手をはなした彼は、あわてたようにアノンを追って外に出た。

「ピィ」

 自分に何があったのかとぼうぜんとしているレイラの団服のすそを、アールが引っ張る。

(今のは、ただの団長のじょうだんで……すよね……)

 それをアールに見られていたのだと思うと、今すぐ逃げたくなるくらいにずかしい!

「違います、違いますからね、アール」

「ピィ?」

 理解などしているはずのない子ども相手に、レイラは何度もうったえた。

「……──私達も、行きましょうか」

 ようやく不自然な胸の高まりや顔の熱が引き、レイラはアールをいて外に出る。

「いやー、クラウスがこんなに手が早いなんて知らなかったわ。でも安心して。みんなにはないしょにしとくし」

「だから違うと言ってるだろ!」

「またまた〜」

 クラウスのりをアノンはひょいとける。二人はだん内でも仲がいいのだろう。

「レイラちゃん! クラウスがナニかしてきたらすぐ言ってね! こいつ顔見たら分かる通りムッツリだし」

 けらけらとおちゃらけるアノンのえりくびを、ガッとクラウスがつかむ。

「殺されてえか……!?」

 射殺しそうなまなしで、クラウスはギリギリとアノンの首元をめ上げた。

「ギブ、ギブ……! ごめん調子に乗りました!」

 クラウスはきっちりアノンを締め上げたあと、「ふん」と鼻を鳴らして手を放す。

「あの……」

 会話が止まったのを見計らって、レイラは片手を挙げる。

「御安心ください。リッツ様から色々と預かっておりますので、自分の身は自分で守れます」

「ああ、ドラゴンからはぜひそうしてくれ。そして俺は、頼まれてもお前に何かする気はない。さっきのはお前の危機感を心配してやっただけだ」

「やはりそうですよね。安心しました。ありがとうございます」

 皮肉めいた口調のクラウスに、レイラは淡々と頭を下げる。

 苦虫をつぶしたような顔になったクラウスに、こらえきれないとばかりにアノンは腹をかかえて笑った。

「うん、レイラちゃんいいね。これなら安心だわ」

(何か……おかしなことを言ってしまったでしょうか……?)

 ただ何も心配はいらないと伝えたかっただけなのだが。

「……それより、俺達は何をすればいいんだ」

 アノンの足を蹴って無理やりだまらせたあと、クラウスが呟くように言った。

「そうですね」

 三人とも、視線が自然と背後──ドラゴン達のいる結界に向けられた。

 今日からようやく、クラウスとアノンが術具なしのドラゴンと対面する。レイラの体調を考えて、予定が先延ばしになっていたのだ。

 最近では、フレイル以外は名前を呼べば反応してくれるようになったけれど……。

「ね、こいつらってオレらのこと乗せてくれると思う?」

「すぐには無理だと思います」

 レイラの返事に「だよねー」とアノンがぼやく。

「まずは彼らとうことから始めます。ちょうど小腹が空いている時間だと思いますのでおやつをあげましょう。その際名前を呼んであげてください」

 レイラはアールを近くのかげに下ろすと、小屋からおやつのふくろを持ってきて、結界内に躊躇ためらいもせず入った。

「お二人も、どうぞ」

 顔を見合わせるクラウスとアノンをうながす。

 だが、二人が足をれたしゅんかん、結界内の空気が変わった──ような気がした。

 はだに感じるピリピリとしたそれは、ドラゴン達のけいかいの表れだ。クラウスとアノンの表情も、目に見えてかたくなる。

「団長、カレンベルク様、殺気立たないでください」

 クラウス達が感じ取っているように、二人の警戒もドラゴンには伝わってしまう。

「敵意はないと、まずは示すことが大事です。そのためにも、こちらを」

 レイラが袋から取り出したのはクッキーだ。

「ドラゴン用に作りました。一応昨日もあたえています。フレイル以外は食べてくれたのでひとまず問題はないはずです」

「フレイル?」

「火竜の名前です。先日、名前の一覧をおわたししたはずですが」

 まさか目を通していないのかと、レイラは呆れた。

「火竜……ああ、一番か」

「その呼び方はやめてください」

 睨めば、睨み返された。バチバチと、見えない火花を散らす。

「殺気、れてる漏れてる!」

 しょう気味にアノンにてきされて、レイラはせきばらいで無理やり感情を押し殺した。

「……ではゆっくり近づいて、あげてください。手から食べない場合は、地面に置いて離れてみてください」

「OK! ……って、うお!?」

 がくん、とアノンが前のめりになった。慌てて振り返る。

 アノンの後ろにはカルムがいた。カルムは目が合うと「キュウ」と鳴く。

「今きされたんだけど……怒ってる?」

「いえ。クッキーがほしいんだと思います。手のひらにせて、顔の前に出してみてください」

「こう?」

 アノンが言われた通りにすれば、カルムはえんりょなくクッキーを食べ始めた。

「お? おおお……!」

 舌で手のひらもめられて、アノンが楽しそうな声を上げる。

「この子ひとなつっこいね?」

「はい」

 遠慮がちにアノンがカルムの頭をでる。カルムはされるがまま、むしろ気持ちよさそうだ。

(それにしても……)

 クラウスとアノンと並ぶカルムを見たレイラは、改めてその小ささを実感する。男一人を乗せるのにギリギリの大きさは、他のドラゴンとだんちがいだ。六頭いるドラゴンのうち、りゅうは一頭だけなので、土竜全部がこれくらいの大きさなのか、それともカルムだけが特別小さいのかは分からない。

「レイラちゃん、この子の名前は……」

「土竜、カルムです」

「六番か。こいつ、飛べないからいつもきゅうしゃで居残りだったな」

「団長!」

 うれしそうにカルムの相手をするアノンと対照的に、クラウスにやる気がないのは丸分かりだ。いやを言うところなど、気に入らない相手をいじめる子どもガキでしかない。

「大人げない……」

「は?」

「だからなんですぐけんするかなー」

 もう止める気もないのだろう。アノンはハアといきいた。

「ん〜……自分から近づいてきてくれるのはカルムだけか」

「はい。なので他の子には、こちらから近づいていきます」

 二人を先導する形でレイラは歩き出した。

(カルムの次におとなしめなのは、水竜の──)

「おい!」

 湖へ向かおうとしたレイラは、いきなり背後から引っ張られた。

「きゃ……っ」

 とつぜんクラウスがレイラのかたを摑んで引き寄せたのだ。クラウスはかたうでを前にしており、術具を発動させたのは明白だった。

 クラウスの厳しい視線の先には、こちらをえるフレイルの姿。

 どうやらフレイルがほのおいたらしい。クラウスがとっにレイラを守ってくれたようだ。

 アノンは上手うまけたらしく、少し離れたところで身構えていた。

 フレイルを睨むクラウスの唇の端が、かすかに吊り上がる。

「はっ。こんなもんか?」

 笑いながら発された言葉は、明らかなちょうはつだった。

 それはフレイルにも伝わったのだろう。つばさを広げ、飛び上がる。

「来いよ!」

「だんちょ……!?」

 クラウスは乱暴にレイラを突きはなすと、こしに下げていたけんいた。一直線に下降してくるフレイルを待ち構える。

 バランスをくずして倒れそうになったレイラだが、寸でのところで持ち直した。

「ッ、やめてください!」

 レイラはクラウスの腕を摑むと、勢いよく走り出した。

「は!? なっ……」

 火事場の馬鹿力とでもいうのか、無理やりクラウスを引っ張って、レイラは結界を飛び出す。

貴方あなたは……何を考えているんですか!?」

けてきたのはあいつだろうが!」

「違います、あれは……私が、先にあの子の縄張りに入ってしまったんです」

 思った以上に、クラウスやアノンがドラゴンと交流するのに期待していたようだ。カルムと上手くいっていたのを見て嬉しくなり、注意力がさんまんになってしまっていた。

「私の責任です。……ですが、団長もどうして挑発なんかするんですか。はんげきすればますます興奮するばかりです。まずは落ち着かせて……」

「そんな理性があいつらにあるとは思えない」

 剣をさやもどしながら、クラウスは吐き捨てた。にべもない言い方が、レイラの心に突きさる。

「……貴方は仮にも、りゅうだんの団長でしょう?」

 できるできないではなく、仕事としてやるべきことを優先すべきではないのか。

 レイラの指摘は正しく、クラウスも内心それは理解しているのだろう。レイラから視線を逸らす。

「……将来的にものを数多く殺せるからってだけの竜騎士団だ。歯向かうならこいつらにだってようしゃはしない」

 そう言って、クラウスはレイラに背を向けて歩き出した。

「おい、クラウス」

 いつの間にかやって来ていたアノンも声をかけるが、彼は振り返ろうとはしない。

「ピィ!」

 何も知らないアールが、構ってもらえると思ったのか、マントをらす背中に向かってけていった。

「ついて来るな!」

「ピ……」

 しかしクラウスにられ、そのけんまくおどろいてこうちょくする。

 その間にクラウスは、どこかへ行ってしまった。

「ピ……ピィィ……」

 クラウスにきょぜつされたと分かったのだろう。ぺたんと座り込んだアールは大きな目からボロボロとなみだこぼした。レイラはすぐさまアールのところへ向かう。

「アール」

 抱き上げれば、アールはレイラの胸に顔を押しつけるようにして泣きじゃくった。

(団長……)

 レイラの仕事は、ドラゴン達の世話、そして竜騎士とドラゴンをつなぐことだ。竜騎士団が存在して初めて、レイラの仕事は成立する。

 人間とドラゴンが共存する国になれば。その一心で、レイラはドラゴンに接してきた。

 だが竜騎士団の中心である彼があの態度では、レイラがいくら努力したところでなのではないか。

 アールをなぐさめながら、らくたんで表情が暗くなる。

 ふと、アノンが後ろに立っていると気づき、レイラはゆっくりと振り返った。

「カレンベルク様はどうされますか?」

 クラウスを追うのか、それとも……。

「オレは、残るよ。カルム以外にクッキーあげてないし。クラウスの分ももらったから」

 先ほどレイラを助けたときに、クラウスはクッキーを落としていたらしい。それを回収していたアノンは、結界内に戻り、フレイル以外のドラゴンの元へ向かっていった。

 けれど先ほどのクラウスとフレイルの様子を見ていたドラゴン達は、アノンが近づこうとすれば離れていってしまう。

「おーい! 食わない? 美味おいしそうだけど! おーい……」

 湖の中に逃げ込んだ水竜に何度かそう呼びかけていたが、あしに終わったようだ。

 レイラに言われた通り、アノンはクッキーを地面に置いてこちらに戻ってくる。

「ごめん、カルムがすぐに慣れてくれたから、他の子とも仲良くなれるかなって思ったんだけど」

「いえ。すぐには難しいですよね」

 レイラですら、同じ空間でドラゴン達が食事をしてくれるようになったのは最近のことなのだ。ひとまずクラウスとアノンの姿を見ても、ドラゴン達がじゅうおうじんに暴れ回るようなをしなかっただけよしと思うことにする。

(それでも……さっきのでドラゴン達の警戒は元に戻ってしまったかもしれません)

 名前を呼んで振り向いてくれたときの感動を思い出し、レイラは落胆する。

(特にフレイルは、最近こうげきしてくる回数が減ったところだったのですが……)

 結界内のドラゴン達をちらりと見て──

「……カレンベルク様、見てください」

「へ? ……あ」

 振り返ったアノンの視界に映るのは、アノンが置いていったクッキーを食べるドラゴン達の姿だった。

 といってもレイラ達と目が合えば、食べるのをやめてすぐに飛び立ってしまったが。

「食べてくれたということは、少なくとも私達を有害とはみなしていないと思います」

「そっか!」

「こんなにすぐに目の前で食べてもらえるようになるなんて、さすがです。カレンベルク様にはドラゴン達と仲良くなる素質があるのかもしれません」

 結界外にいるとはいえ、人目のある状態で水竜と風竜が食事をしてくれるのは、レイラにだって数日かかった。それを初日でこなすなんて。

「違うよ。それはレイラちゃんのおかげでしょ」

「え?」

「レイラちゃんがずっとドラゴン達に、人間は味方だって伝えてくれてたから、オレやクラウスが来ても暴れたりしなかったんだと思う。ありがと」

「いえ、そんな……これが、私の仕事なので」

 そう言いつつも、確実に前へ進んでいると実感できることは、嬉しい。

「フレイルにも……伝わればよいのですが。あの子だけ……」

 いっかんして態度の変わらないフレイルだ。条件は他のドラゴンと同じなのに、一頭だけが心を開こうとしないのには特別な理由があるのかもしれない。

「好戦的な性格である可能性はいなめませんが……」

「あー……」

 レイラの呟きに、アノンがぼやく。何か知っているらしい口調だ。

「理由をご存じなのですか?」

「多分だけど……あいつは、クラウスがとうばつするつもりだったやつだから」

「というと……?」

 アノンいわく。

 フレイルは元々、人を襲うためじょしてほしい、とらいされたドラゴンだったという。その討伐に向かったのが、クラウスを始めとする騎士十数人だった。

 しかし討伐は直前でばくへんこうされた。ドラゴンをあやつる術具が完成したので実験的に使用すると決定が下されたためである。

 フレイルのおかげで術具の効果がかくにんでき、他のドラゴンの捕獲にも成功した。そうして竜騎士団が設立され、今に至る。

「フレイル以外は、空腹やで動けなくなったところをらえて連れてきたから、あんまオレらを敵とか思ってないのかも? カルムは最近来たばっかだから余計に警戒心薄いのかもね」

「なるほど」

 そんな理由があるのであれば、フレイルがこちらに敵対心を向けるのも当然だ。

「……あのさ、レイラちゃん」

「はい」

「クラウスが、ごめん。ただ……あいつも複雑っていうか、多分、どうしたらいいのか分かんないんだと思うっていうか……」

 視線を彷徨さまよわせるアノンは、言葉を探しているようだった。レイラは、やっと涙が治まってすんすんと鼻を鳴らすアールの背中を撫でながら、アノンの話の続きを静かに待つ。

「あいつさ、昔、えっと、知り合いを魔物ドラゴンに……殺されてね。そういったがいがこれ以上増えないようにって、騎士団に入ったんだ。だんあんなだけど、あいつめちゃくちゃ強いから。その実力が認められて、団長にばってきされたんだけど……皮肉だよな。抜擢された先が竜騎士団なんてさ」

 レイラは何も言えなくなる。

 もしかしたらその知り合いというのは、クラウスにとって大事な人だったのかもしれない。ドラゴンに知人を殺されたクラウスと、一時とはいえドラゴンカールと友達になれたレイラ。ドラゴンに対する自分達のきょうぐうは、あまりにも違いすぎる。

「レイラちゃんからしたらふざけんなって感じかもしんないんだけど、正直オレらもワケありっていうか……まぁ、必死だったのよ。竜騎士団である以上、ドラゴンをあつかって成果を出さなきゃいけない。けど相手は敵対してきた魔物じゃん? いきなり仲良くなれって言われてできるかって話で。その結果が、術具をずっと着けとくこと」

「……」

「厩舎がきたなかったのは、ごめん。それはオレらが悪い。だれも世話とかしたことなかったし、なんでオレらがって気持ちがあった。ただ……騎士館とかでアール見かけてさ、ドラゴンって可愛かわいいかもって思うやつも出てきてて。オレもそう。しかもこれからのこと考えたら、やっぱドラゴンと仲良くできるなら、そうすべきだと思うんだよね。……ムシのいい話かもしれないけど」

「……いえ。そう思っていただけただけでも、よかったです」

 アノンの表情から、こうかいしているらしいというのはじゅうぶんに伝わってきた。他の騎士達全員がクラウスのようにドラゴンをきらっているわけではないと分かったのも、安心する。希望はあるのだ。

「クラウスも、このままじゃダメだってことは分かってると思うからさ。あれでもだし。時間かかるかもだけど、オレも説得するから」

「分かりました」

「あいつ、本来はやさしいやつだからさ。いまごろ反省してると思うんだよね。この前も、医務室まで君を運んだのあいつよ? アールの様子がおかしいってすぐに気づいて、何かあったのかもって」

「そうなのですか?」

 そういえば、誰が運んでくれたのか聞いていなかった。

(それにあの日、団長は私の不調に気づいてくれていて……王都に来るちゅうで襲われたときも、助けてくれたのは団長で……)

 いつの間にか、彼に何度も助けられていたらしい。

「団長にはあとでお礼を伝えます」

「うん」

 うなずいたアノンはドラゴン達を振り返った。それから改めて、レイラとアールに向き直る。

「オレらが今までドラゴン達にしてきたことはチャラにならないけど……これからがんるからさ、りずにオレらに色々教えてくれる?」

 今までの軽いふんから一変して、アノンは真面目な顔でレイラを見つめた。

 アノンの本気を知り、レイラは「はい」と答えようとする。

「ピィ!」

 が、その前に、任せろ! と言わんばかりにアールが鳴いた。

 あまりにもばっちりなタイミングに、レイラとアノンは顔を見合わせる。

「頼もしー! よろしく頼むよ、アール」

 アノンはそう言って笑い、レイラも微かに表情をゆるませた。

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