第21話 光輝の訓練 2

 ダンジョンの中のちょっと広めの部屋で、慎二は光輝に、魔法の手ほどきをした。本当は、クレシスか教えようとしていたのだけれど、光輝が嫌がったこともあり、クレシスからの手ほどきはなくなった。

 そもそも、自分の体内に膨大な魔力がある。なんて、言われたところで信じられるものでは無い。魔法なんて存在しない世界から来たのだから、信じていないものを使えるわけなどないのだ。

「手のひらに、意識を集中して、手のひらの中に炎をイメージするんだ」

 一番わかりやすい火の魔法を教えることにした。攻撃力もあるので、最初に覚えるにはうってつけだ。

「熱く、ない?」

 光輝は自分の手のひらで、炎が燃えたら熱いだろうな。と、そちらを想像してしまい、躊躇っている。

「大丈夫。その手袋は防御力たかいから」

 慎二が、そう言うと、ようやく安心して光輝は炎のイメージを思い浮かべる。

「わぁぁぁ、ほんとだ、熱くない」

 直ぐに炎を手のひらに作る出すことが出来た光輝は、嬉しそうに笑っていた。

「これがイメージ、あとは攻撃する時はこの炎をこのままボール状で、敵にぶつけるように念じればいい」

「そんな簡単でいいの?」

「俺たちの場合は」

 慎二は肩を竦めて笑って見せた。

 本来、この世界の住人はもっと大変な修行をするらしい。けれど、所謂チート能力らしく、イメージするだけで魔法が使えてしまうのだ。

 だから、聖女に知られる訳には行かない。いや、もしかすると聖女は知っているのかもしれない。異世界人が簡単に魔法を使えることを。

「イメージすればいいんだ。例えは氷の矢を無数に投げつける、とか」

 そう言って、慎二は向かいの壁に数本の氷の矢を放った。矢が当たった壁は、みるまに凍りつく。

「凄い」

「だろう?」

 光輝が、あまりにも無邪気に喜ぶから、慎二は油断していた。

「こりゃ、すげーな」

 奥に繋がる階段から、ジークフリートが顔を出していた。

「いつから…」

 ジークフリートは、入り口からではなく、ダンジョンの下の階層からやってきた。つまり、慎二たちより先にダンジョンに潜っていたことになる。

「俺は冒険者なんだぜ?ダンジョンぐらいもぐるだろうよ」

 ジークフリートは当たり前だと言う顔で、そう言うと、光輝の手を掴んだ。

「な、なに」

 大男に腕を掴まれて、光輝は怯えた顔をする。

「見せてくれよ」

 そう言ってジークフリートは光輝の手袋を外した。

「随分とクッキリ刻まれてるなぁ」

 しげしげと光輝の手の模様を見る。ジークフリートはこれがなんなのか分かっているようだ。

「知っているのか、この模様このこと」

 慎二はジークフリートから光輝の手を振り払い、聞いた。

「ああ、知っているさ。ダンジョンの下層まで潜れるような冒険者なら、見たことがある模様だ」

 慎二と光輝は顔を見合せた。そんなところにある模様?

「そんな顔をするあたり、お前は違うところで見たようだな」

 ジークフリートが意味ありげな顔をしたので、慎二は一瞬警戒した。

「俺も知ってるぜ、当ててやろうか?」

 いたずらっ子のような顔をして、ジークフリートは言い当ててきた。しかし、それならば、なぜ?と言う疑問が浮かんでくる。

 魔物が生まれるダンジョンの奥にあるのと同じ模様が、なぜ勇者と呼ばれる慎二の手に刻まれたのか?召喚された光輝の手にも刻まれたのか?

 そして、なぜ聖女の胸に同じ形がぶら下がっていたのか。

「知りたいか?」

 ジークフリートが笑っている。

 慎二と光輝は黙って頷いた。

「お前らの手にあるのは裏紋だ。ダンジョンにあるのは表紋。裏紋は吸収、表紋は放出」

 光輝の手の模様を指さしながら、ジークフリートは続ける。

「ダンジョンの表紋は、放出だから魔物を生み出す。裏紋を持っているのダンジョンの主だ。で、お前らの裏紋は魔力を吸収する。倒した魔物から流れ出る魔力を吸収して、放出する先は……」

 答えが分かった慎二は続きを口にした。

「聖女」

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