第20話 光輝の訓練
訓練をしようとしたクレシスを追い払いはしたものの、ゆうことを聞かない光輝を一人にするのは危険だ。
そもそも聖女が、何をしてくるか分からない。
慎二にだって、聖女はもう、気づいただろう。
真面目に訓練を受けた慎二が、勇者として相当な力を持ち、自分以上の魔力を有していることを。グローブでかくしてはいるけれど、慎二の手には光輝と同じ模様がある。
この模様がなんなのか、慎二は一人でこっそりと調べていた。城の中に、この模様は見当たらず、魔法に関する書物にもでてこなかった。
だからこそ、迂闊に誰かに訊ねるなんてことをせずに、自力で調べることにしたのだ。そして、人目に触れないように隠して。
しかし、この模様を慎二は見つけてしまった。
召喚の儀式の際、聖女の胸にぶら下がっていた金の飾り。
自分の手にある模様と同じ形をした金の飾りを胸に下げて、聖女が召喚の儀式を執り行っていた。そうして召喚された光輝の手にも、同じ模様があった。
しかし、聖女に直接聞く訳にも行かないので、慎二は光輝にも手袋をはめさせた。魔道士はローブとグローブを身に付けるのが正装だから、光輝に付けさせるのはなんの問題もなかった。
「この格好、やだな」
ローブだけではワンピースを着ているみたいで下半身がスースーして落ち着かないらしい。光輝がそういうので、兵士に支給されているズボンを光輝に渡した。
確かに、現代日本では大抵男子はズボンを履いているものだ。
魔道士は杖を持っているので、光輝にも杖を渡してみる。
「重い」
箸より重たいものを持ったことがない。というわけではなかったが、身長の半分もあるような木の杖は、やはり重かったようだ。
「持たなくても魔法が使えればいいんだけど」
慎二がそう言うと、光輝か明らかに嫌そうな顔をした。
「この世界を生き抜くためには、使える力は使えるようにしておくべきだ」
慎二がそう言うと、光輝は泣きそうな顔をする。
「やだよ僕、魔物とか、戦うとか」
パズルゲームぐらいしかしたことが無い光輝は、剣とか魔法に興味が無いどころか、現代っ子らしく争うことじたいを受け入れられないでいた。
「基本は俺が戦うけど、いざと言う時に自分の身を守れないと、本当に死ぬぞ」
真剣に言われて、光輝は仕方なく頷いた。
たとえ魔物であっても、誰かを傷つけるような真似はしたくない。けれど、そうしないと自分が死んでしまうというのなら、嫌だけど、する。
慎二は、一応魔道士らしい格好をした光輝の手を引いて、城の外に出た。聖女に監視されないように、ギルド経由で外に出て、魔物と対峙することにしたのだ。
「僕、戦うの?」
手を引かれて、光輝は渋々歩いている。防御力を高めたローブは、軽いけれど暑い。頭から被るフードは、視界を悪くしている。
「魔法の使い方を覚えるんだ。この森の中にちょっとしたダンジョンがあるんだ。そこの中なら聖女に見つかることは無い」
「どうして?」
「聖女にお前の力を見せるわけにはいかない」
慎二はそう言うと、魔法で二人の気配を消した。
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