第19話 勇者の作り方15

 慎二が疑うような視線を向けていることに気がついたのか、ジークフリートは慎二の顎を掴んでいた手を離して、慎二の、髪をぐちゃぐちゃにかき乱すように頭を撫でてきた。


「そんな顔をするなよ。なぁ、俺のことも疑ってるのか?」


 慎二の髪をぐちゃぐちゃにしながら、ジークフリートは話し続ける。

「まぁ、確かに俺は貴族の息子だよ。それだけでお前からしたら警戒するべきなんだろうな」

 慎二は自分に触れるジークフリートの手から、色んな情報を受け取ろうと、微量な魔力を流していた。


「俺は剣の腕はたつが、城に務めるにはちょっと頭が足りなくてな、騎士にはなれなかったんだよ」

 笑いながら言ってくるけれど、それはそれで問題である。城に務められる頭とは?

「腹の探り合いが出来ねーんだよ。つーか、苦手だ。出来ればしたくはねぇんだ」

 ジークフリートの手から、その発言が嘘ではないと伝わってくる。けれど、それでも慎二は警戒をとく訳には行かない。


「なんで俺が選ばれたか知ってるか?貴族なのに冒険者におちぶれたかなら、救済してくれるんだとよ。名誉を回復するチャンスを、与えてくれたんだと」

 そう言ったジークフリートの目は笑っていなかった。むしろ怒りに満ちていた。

「知ってるか?今回の儀式で召喚されるのは魔道士なんだと。膨大な魔力を持った魔道士を異世界から召喚して、勇者と一緒に魔王討伐をさせるんだとさ」

 それを聞いて、慎二はジークフリートを見た。ジークフリートの目は笑ってなどいなかった。真剣で、それでいて、何か怒っているような、そんな感じのする恐ろしい目線が慎二と絡み合った。


「じや、あ……あの魔道士、は?」

「そりゃ、あいつはお貴族様でエリートだ。名誉は欲しいだろう。だが、自分が危険で大変な魔王討伐なんて、したくはないんだよ。だから聖女と一緒になって召喚の儀式をするんだよ」

 神託なんて出ちゃいない。ジークフリートはそう言って慎二から手を離した。


 アレクは平民の子どもであったから、聖女なんて見たことは無かった。もちろん、村の住民は大抵そうだった。だから、神託が出たとお触れが回れば、それを素直に信じたものだ。


 だって、神託は、神の声は聖女しか聞けないから。


「なぁ、神託によって殺された勇者様よ、あんたはそれでいいのかい?また一人、あんたみたいなのがこの世界に来ちまうんだぜ?」

 慎二は全身から力が抜けて、その場に座り込んだ。

 前世の記憶を思い出した時より、余程恐ろしかった。

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