第18話 勇者の作り方14

「なぁ、何を企んでいるんだよ勇者様」

 頬をなでていた手が、顎を掴んで上を向かせてきた。この世界では体格のいい部類に入る慎二ではあるが、貴族の子弟で冒険者をやっているジークフリートは、それよりも体格が良かった。


 美味しいものを沢山食べて、体を鍛えているからか、ジークフリートは慎二よりも随分と大きかった。この世界ではだいぶ珍しい。城にいる騎士たちと比べても、ジークフリートの方が随分といい体躯をしている。


 年齢も慎二より五つか六つほど年上だったはずだ。

 そう考えると、ジークフリートの子どもの頃から聖女が聖女であったのなら、聖女は一体何歳なのだろうか?慎二の見た聖女の顔は、現代日本での慎二の母親より年上に見えたのだ。

 女性のことなので口に出すことははばかられる気がして、慎二は思わず口を手で覆ったけれど、叫びそうなぐらい驚いたのは確かだ。


「なぜ、俺が聖女に惚れていないと?」

 慎二はゆっくりと口を開いた。

 迂闊なことを口にしないように、慎重になる。

「見てれば分かるさ。俺は冒険者だしな」

 ジークフリートは慎二から手を離さないから、慎二はジークフリートを見つめたままになる。目線逸らせられないからこそ、嘘が付けない。いつもなら、頬を染める代わりに両手のひらで顔を覆って恥ずかしがっているように見せていた。けれど、いまはそれが出来ない。


 目は口ほどにものを言う。


 全てが見透かされているようだった。

「お前、聖女が、嫌いだろう?いや、憎んでいるよな?」

 慎二の心の内をジークフリートはさらけ出す。全てバレているのかと、慎二は顔を強ばらせた。

「気づいたのは俺ぐらいだろうよ。俺はあんたをよく見ているからな」

 視線が絡み合ったままで、慎二は瞬きも出来ずにいた。ジークフリートの目は恐ろしかった。言ってしまえば、聖女の目より恐ろしい。


 よく見ている。


 そう言う目をしていた。


「俺は、聖女の言うなりになるつもりは無い」

 慎二はようやくそう言った。

 それを聞いて、ジークフリートがニヤリと笑う。

「それってーのは、つまるところ、魔王討伐なんかするつもりは無い。ってことだよな?」

 ジークフリートは言いながらニヤニヤとした顔を崩さない。とてもじゃないけれど、善人には見えなかった。

「………どうして……」

 掠れた声で慎二は言った。どうしてそうだと思ったのか。

「うさんくせーよなぁ、あの聖女は。どうしていつまでもあの姿でいられるんだ?なんで聖女ごときが召喚とか、できちまうんだ?」

 ジークフリートはそんなことを言うけれど、貴族の子弟でもあるから、にわかには信じることなどできやしない。

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