第15話 勇者の作り方11
そんなことを何度も繰り返しているうちに、魔王討伐に同行する戦士と魔道士が決められた。
結局はパーティ丸ごとを慎二に、同行させるのではなく、実力のある冒険者をスカウトする形になった。なので、当然だが自己顕示欲の強い者がやってきた。
剣士はジークフリート・ウィルクスと言い、冒険者でありながら貴族の子弟だった。相続の権利が無いらしく、城で働いて穀潰しとバカにされるぐらいなら、と、冒険者になったそうだ。
魔道士はクレシス・セグゼルと言い、国の研究機関からやってきた。選りすぐりのエリートだった。こちらも貴族の子弟だった。
顔合わせの時、慎二はどちらもとも仲良くは出来ないな。と直感で悟った。どちらも貴族である。剣士の方は平民の装いをしてはいるけれど、随分と仕立てのいい服を着ていた。
魔道士は、最初から威圧的だった。貴族の子弟で、国の研究機関で働き、エリートの魔道士だ。慎二を見るなり高圧的な態度で、接してきた。
「勇者とは言っても、異世界人。この世界においては元は平民じゃないか」
選民意識丸出しの言い方に、慎二は内心腹がたったが、困ったように眉根を寄せて聖女を見るにとどまった。自分では何も言い返さず、全ては聖女のお気に召すまま。そんな態度を取れば、聖女が鼻息荒くも口を開く。
「わたくしの召喚した勇者になにかご不満でも?」
そう言う聖女を、慎二はひたすらに見つめる。自分の心の内を悟られないように、とにかく聖女に縋るように見つめるのだ。
そうすれば、聖女は勝手に解釈をして、自分のプライドのために慎二を擁護するのだ。聖女である自分が神託を受けて召喚した勇者である慎二を、バカにすることは、聖女である自分を、バカにしている。そう言って高圧的な態度をとってくれる。
そんなやり取りを慎二は内心呆れながらみている。心の内を読まれないように常にオートガードをかけておき、聖女を見る時は縋るような目付きになったり、はにかむように下を向いたりととにかく演技した。
自分の部屋に結界を張ったのも、聖女に探られないようにするためなのだが、令嬢からの色仕掛けが怖いと言うことにしてある。
「アレク様はどうしてこんな結界を?」
聖女が宰相と尋ねてきた時、厳重な結界をみて聖女が驚いていた。もちろん、聖女の目を塞ぐためのものであるのだが、慎二はここで演技した。
「あ、すみません。あの、その…聖女様は、おひとりで?」
結界を解いて、扉を開け、聖女の姿を確認しながらも、慎二は俯きながら扉から手を離さない。
「いえ、宰相殿もいらっしゃいますよ」
聖女が、そういったのを聞いてから、慎二は少しだけ顔を上げて、宰相をみる。
「あ、ああ、宰相殿もいらしたんですね、ああ、良かった」
そう言いながら扉を開けるものの、辺りをキョロキョロと慎二はみる。
「どうかされましたか?」
宰相が、不審に思って口にすると、慎二は困ったような顔をして口を開く。
「あの…たまにご令嬢が、ここに、来ることがあるもので」
慎二はそう言いながら、ちらりと聖女をみて、慌てて顔を下に向けた。これだけで、聖女の機嫌を、取れたはずだ。
「……そうでしたか、それは宜しくないですな」
宰相はそう言いながら、チラと聖女をみて、その後慎二をじっくりと見た。慎二ははにかんだような笑顔を浮かべて、聖女をチラチラと見ている。それを見て、合点がいったかのような顔をした。
慎二の演技を間に受けてくれた宰相は、慎二に余計なことを教えてくれた。
「勇者様、聖女は神にその身を捧げておりますから、結婚は出来ないのです。が、もし仮に勇者様が魔王を討伐した暁には……なくはないかと」
そんなことを言われて、慎二は顔を両手のひらで覆ってしゃがみ込んだ。そう簡単に顔を赤くは出来ないので、こういうリアクションをとることで、上手く誤魔化す。
勇者は聖女に惚れている。
そう勝手に思ってくれれば有難い。
そうでもしないと、部屋に毎晩夜伽の相手を送り込まれて迷惑なのだ。
現代日本では高校二年生であったから、それなりに興味はあるけれど、それを口実に何をさせられるかわかったものではない。
とにかく慎二は、勇者は聖女を一途に思っている。そう世間に見られるように演技した。
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