第14話 勇者の作り方10


 訓練が進むにつれて、慎二は時折城壁の外に連れ出された。


 そんな時に同行するのは冒険者で、宰相が監視のように近くに馬車を停めて、魔物との戦いを見ていた。宰相の乗る馬車を護衛する騎士がいるものの、慎二たちの戦いには手を出しては来なかった。


 慎二は同行する冒険者たちと、世間話をしながら移動していた。宰相は馬車に乗っているが、慎二たちは徒歩である。鎧をつけて歩くことも訓練の一環だと思えば、頑張って歩くというものだ。何かあったら、貰ったものは全て持ち出すつもりである。この鎧も、冒険者たちから見ればものすごく高価なものだろう。慎二には素材のことはまるで分からないが、魔物と戦っても、傷一つつかなければ、その性能の良さを知ることとなる。


「なぁ、あんたたちは俺と魔王討伐に行くのか?」

 後ろにいる、騎士たちに聞こえないように慎二は尋ねる。

「え?あ…あの……」

 突然聞かれて冒険者は戸惑っていた。

「普通に話をしてくれ。これはあんたたちの、試験かなんかなんだろ?」

「…あぁ、そうだ」

 冒険者の、喉がなる。恐らく、慎二には内密にことがすすめられているのだろう。

「よくあるパーティ編成だもんな。攻撃役の剣士に、魔道士と盾役の戦士か」

「冒険者としては、よくあるパーティだ」

 盾役の戦士がそう言って、後ろにいる魔道士をみた。

 魔道士は萎縮したように俯いてしまう。

「なんか、ある訳?」

 慎二はその様子を不審に思って隣に立つ戦士に聞いてみる。

「そりゃ、あんたと一緒に魔王討伐に行ければ凄い名誉だけどな。下手すりゃ死ぬだろ?」

「普通に冒険者してても死ぬだろ?」

 慎二が軽く言うと、戦士が笑った。

「確かにな、だが、この辺りの魔物と戦うのと、魔王と戦うのじゃリスクが桁違いだろ」

「名誉はいらない。って?」

「ああそうだ。俺たちは生きていけさえすればいい。そのために冒険者になったんだ」

「だよな、普通は」

 そう言って、慎二は一人で魔物の首をきりおとす。盾役の戦士も、魔道士からの援護も使わなかった。命を狩ることに躊躇いがなくなっていた。魔法をある程度習得したため、怪我をしても自分で回復できるし、オートガードを発動できるようになったため、盾役の戦士もふようたった。


 だから、それをあえて宰相に見せつけるように戦った。こいつらは不要だ。そう分からせるために動いた。

「っ、あんたな」

 戦士が慌てて動くが、その前に慎二が全ての魔物を狩っていた。慎二の動きに着いて来れないパーティだと、宰相の目には映ったことだろう。

「これでいいだろう。あんたたちは不合格になるはずだ」

「どうして…」

 魔道士が、呆然と呟く。

「だって、あんたは女の子のでしょ?聖女が同行すしないのに、なんであんたが同行するんだよ」

 慎二は、そう言って踵を返す。もう、魔物を狩る必要は無い。ギルドで受けた依頼の魔物は規定数討伐できた。その証拠の魔石もポケットに入っている。

「これで依頼は完了だろ?」

 戦士の掌に、拾った魔石を乗せると、ギルドからもらった依頼書に完了の文字が浮かび上がった。魔力のこもった依頼書で、内容が完了すると自動的に文字が浮かび上がってくる仕様になっていた。この仕組みは機密事項らしく、ギルドの一部職員にしか用紙の作成ができないらしい。


「依頼が完了したから帰る」

 慎二は短く騎士に告げると、宰相に、挨拶もせずに元来た道を一人で帰って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る