第11話 勇者の作り方7

宴の席に出てきた料理は、アレクの人生では見たことがなかった。慎二の記憶で言うなら、ホテルのバイキングみたいだった。

 立食パーティーの装いで、慎二は国王と聖女の挟まれて自己紹介をさせられた。それでも慎二はあくまでもアレクと名乗った。絶対に前世の名前を聖女に知られてはいけないと思ったのだ。

 勇者としての慎二のお披露目は、随分と盛大だった。恐らく貴族と言われる人達が集められて、綺麗なドレスを着た娘が大勢いた。

 この世界ではまだ、10歳程度だったのと、前世では高校生だったこともあり、慎二は香水と化粧品の匂いに辟易した。けれど、それを露骨に出すわけにもいかず、慎二は恥ずかしいかのように下を向くようにした。

 それでも臭いものは臭いので、できるだけ口から息をするようにしたら、口ごもっているように見えたらしく、勇者は恥ずかしがり屋だと解釈された。

 おかげで、貴族の娘たちは慎二に張り付く時間を短くしてくれた。勇者に嫌われたくないという思いがあるのだろう。

 そんなふうに扱われている慎二のそばに、当たり前のように聖女がやってきた。召喚したのは自分なのだと誇示するためだとすぐにわかった。けれど、聖女を無下に扱うわけにはいかない。貴方のことを、信頼しています。と言う顔をして、隣に立つ聖女を見つめる。勇者は聖女しか見ていません。そんなふうに思われるように、慎二は聖女をみて、聖女の顔色を伺うように振舞った。

 それだけで聖女の自尊心は満たされたようで、自分に対して満足そうな笑みを浮かべる聖女は、おおよそ聖女と呼ぶには躊躇うようなような顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る