第10話 勇者の作り方 6
そんなことをしていると、部屋の扉が叩かれて、来客を告げられた。
「聖女ミリアと申します」
声を聞いた途端、慎二は背中が寒くなった。前世の記憶を取り戻すときに聞いた女の声だった。こいつが諸悪の根源かと思うと、自然に体に力が入る。意識に力が入った時、慎二はなにかに気がついた。
聖女が、何かをしている。
聖女の落ち着いた目が慎二をじっと見つめていた。その目は、慎二の何かを探るように見つめている。
「なにか?」
慎二はできるだけ砕けた笑顔を浮かべて聖女に尋ねた。警戒をしていない、聖女の美しさに絆されているような顔をした。
「あら、ごめんなさい。私としたことが」
聖女は頬を軽く赤くして俯いた。
けれど、慎二はすぐに気がついた。こんなの演技である。学校でよく見かけた、はにかんだような笑顔を浮かべる女子生徒。まさにそんな感じだ。
「いえ、あの」
慎二も、つられたかのように頭をかいて照れたように下を向いた。そんな慎二を見て、宰相が薄く笑ったのが見えた。
「勇者殿、こちらの聖女様が神託にてあなたの覚醒を告げられたのです」
宰相が、そう言ったので、慎二は驚いたように目を大きく開けて聖女を見た。
「あ、そ、そうなんですね。あの、俺……この世界ではたしか、アレクと呼ばれてました。多分」
慎二は大袈裟に驚いて、慌てるような喋り方をした。前世の名前をすすんで教える必要はないだろう。この手の世界観だと、名前が重要だったりすることがあったりするのをラノベので読んだことがある。
だから、聖女をチラチラと見ながら話してみた。
「まぁ、アレク様と申されるのですね」
聖女がまるで花がほころぶかのような笑顔で名前を呼んだ。それを聞いて、慎二は照れて恥ずかしいというような感じに下を向いた。そう簡単に頬を赤らめるなんて出来ないから、下を向くしかない。ラノベの主人公は大抵コミュ障だっりするから、綺麗な聖女を直視なんてするはずがない。
慎二はいちいちラノベの主人公の気持ちになって行動をとった。本当なら、こんな性格の悪さが滲み出ている目をした女なんか大嫌いだ。聖女と言う割には、ずぶんと露出のある服装に見える。胸元が開きすぎだ。こんな服装、日本なら真夏にしか見ない。スカートばっかり長くて、上は胸を強調するかのようなデザインだ。ホルダーネックのデザインなんて、聖女の服装として正しいのか?ずい分とこの世界の神はセクシーがお好みらしい。
慎二はわざとらしく、聖女の胸を見ないように顔をかなり背けた。近づいて話しかけようとする聖女から、若干逃げるような仕草をとった。
「あ、あら、アレク様」
必至に目を背ける慎二に気がついて、聖女は口に手を当ててはにかんだのうな笑みを浮かべた。
「勇者殿は純真なご様子で」
宰相がそう言うと、聖女は、すっと慎二から離れた。
「あの、あの、ご、ごめんなさい」
慎二は見たくもないから、両手で顔をおおい、聖女を見ないようにした。本当に見たくないのだけれど、反応を確認したいから、指の隙間から聖女を見る。
その行動が、思春期の男子らしく見えたようで、聖女は満足そうな笑顔を浮かべていた。
「今夜は勇者殿が覚醒した宴を催そうかと思うのですが、いかがでしょう?聖女様」
宰相が聖女の都合を聞いている。
「まぁ、素晴らしいですわね」
聖女は満面の笑みで喜んだ。
宴の準備があるからと、宰相が部屋を出る際、聖女も一緒に退室してくれた。
二人がいなくなって、慎二は全身から力が抜けた。
聖女は慎二の心の内を読もうとしていた。咄嗟に防げたのは、勇者の力のなせる技だったのかもしれない。
慎二は気疲れしてしまい、しばらく椅子の上で放心していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます