第6話 勇者の作り方 2
荷馬車に揺られてアレクは首都に連れてこられた。
ガタガタと揺られる荷馬車にいながら、アレクは全く目を覚まさなかった。
布にくるまれて入るけれど、見張りの兵士はアレクの体を見つめている。僅かながら、アレクの腹の辺りがゆっくりと上下するのを見つめているのだ。
その動きがある限り、この子どもは生きている。ただそれだけを見守り続けるだけで、兵士は布にくるまれたアレクの隣に座っていた。
首都から近い村だったので、その日の夜には首都に入り、荷馬車はそのまま大通りを駆け抜けていく。
先達が間に合ったのか、荷馬車が通る門は次々と開けられて、荷馬車が、通過すると直ぐに閉じられた。
そうして荷馬車はどんどん奥に行き、城の門の前でようやく止まった。
「例の子どもは?」
門の側には宰相が立っていた。
深夜であるにもかかわらず、宰相の目は爛々と輝いている。側に焚かれた松明の炎を映しているからでは無いことは明白だった。
「こちらに」
荷馬車から、布に包まれたアレクを兵士が差し出した。
「このまま連れてこい」
宰相は顎で示すと、そのまま門の中へと消えていく。アレクを抱いた兵士は、そのまま宰相の後へと続いていく。
城内はとても静かで、誰もいないかのようだった。
宰相は後ろを振り返ることなく、城内を突き進む。
そうしてたどり着いたのは、広間だった。
「ここに置け」
宰相は広間の床を指し示した。
言われた通りに兵士は布に包まれたままのアレクを置いた。
「ご苦労だったな」
宰相が労いの言葉をかけると、兵士は膝を着いて挨拶をすると、直ぐに広間から立ち去った。
「それが、そうなのか」
広間には、王がいた。
静かに、玉座に座ってアレクを見る。
暗い色をした髪は、夜の闇に溶けそうだった。閉じられた瞳の色は何色なのだろうか?聖女の神託が間違いなければ同じような暗い色をしているはずだ。
そう、勇者であるならば、暗い髪色に暗い瞳の色をしているはず。目を覚ますまで確認は出来ないが、髪色は確かに暗い色をしている。
いや、どんどんと色が深くなっていく。
時間が経つほどに、どんどんと闇の色に変わっていく。
「なるほど、勇者として目覚めている最中か」
王は感心したように呟いた。
ここまで色が変化したとあっては、アレクを運んできた兵士たちも、次にアレクを見た時に気づくことは無いだろう。もちろんアレクの両親も、ここまで色が変わってしまっては、次にアレクを見た時に、これが自分の息子だとは気づくことも出来ないだろう。
だが、それでいいのだ。
勇者は聖女が召喚したのだ。
別の世界で死んだものの魂を、聖女が召喚してこの世界の赤子の中に封じこんだ。肉体によく魂が溶け込んだ頃合を見計らって、勇者として覚醒させるべく、前世の記憶を取り戻させたのだ。
だから、勇者は前世の姿を取り戻している。
暗い色をした髪に、同じように暗い色をした瞳。
それこそが、聖女が召喚した勇者の証である。
王は結果に満足して、玉座から降りた。
「何かあったら呼べ」
「御意に」
宰相は、王が立ち去るまで頭を下げてはいたが、扉が閉まる音がして、ゆっくりと頭を上げる。そうして、眠るように横たわる勇者を見た。
「さてさて、聖女の仕事は確かなようで」
この世界の住人たちの思惑で、勇者は召喚され覚醒させられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます