第4話 勇者と光輝
「昨夜も少しはなしたとおもうけど」
勇者は抱きしめたまま、光輝の頭を優しく撫でる。
「うん、聞いてる。転生者だって」
「そう、それをもう少し」
そう言って、勇者は一旦光輝から離れた。
扉まで行くと、鍵をかけ、何かを施す。
「念のため結界を張った。まぁ、聖女には破られるかもしれないけれど」
そう言いながら、軽く笑って、勇者は光輝の隣に座った。
「ご飯は食べた?」
光輝は、頭を左右に振る。
「そうか、じゃあこれを」
勇者はそう言って腰に付けたポーチから何かを取りだした。
「俺が握ったんだ。塩味しかないけど。あと、干し肉」
ベッドの上にそっと置かれた。
光輝はそれを見て、ただ驚くしか無かった。本当にゲームの世界のような魔法のアイテムが存在するのだ。そして、それはやっぱり勇者が持っている。
「……食べても、いいの?」
「食べてよ。光輝のために作ってきたんだ」
光輝は小さく手を合わせて、おにぎりを口に頬張った。塩味の米の味。昨日から何も食べていない。この世界の食べ物はなんだか不思議で、口にする気になれなかった。唯一同じなのは水ぐらいで、それでも飲む前に躊躇した。
「光輝、お前には魔力があるから、口にする前に軽く手をかざすといい。そうすれば毒の有無が分かるはずだ」
「毒?」
「ああ、聖女が何もしてくるか分からないからな。聖女はプライドが高い。自分が召喚したのに、言うことを聞かないなんて許せないだろう。だから、光輝を何とかするために、何をしてくるか分からない」
おにぎりよりも、干し肉を噛むのに光輝はかなり苦戦していた。現代っ子である光輝は、噛むことがだいぶ苦手だ。
「ほら、水」
勇者は光輝に、コップを差し出した。
「手をかざしてご覧」
勇者に言われて光輝はコッブに手をかざす。何も感じない。
「この水は大丈夫。でも、これはどうかな?」
勇者はテーブルから焼き菓子のようなものを持ってきた。光輝は、それに手をかざしてみる。
「なんか、黒いモヤが見える」
「それは薬だ」
「薬?」
「毒なら紫。黒は体に良くない薬。眠らされたり痺れがきたり、そう言う体に害が出るタイプの薬」
「入ってるの?」
「そうだね。入ってる」
勇者は焼き菓子のようなものを、手のひらにのせた。
「しびれ薬の類かな?」
「わかるの?」
「慣れれば。俺も色々されたから」
勇者はそう言って、焼き菓子のようなものを元に戻した。
「色々、された?」
光輝は訝しんだ。勇者が、色々されるとはどういうことなんだろう。
「じゃあ、俺の話をしよう」
勇者がベッドの縁に座る。そうして、光輝と向き合った。
「長い?」
「少し、長くなる」
「うん、わかった」
光輝は頷いて、勇者を見た。
「昨夜話したけど、俺は転生者なんだ」
勇者が話し始めた。それは昨夜聞かされたことだ。転生者なんて、まるでラノベのようだ。
「俺も前世は高校生だった。高二だったよ」
「僕と同じ」
「そうか、光輝も、高二なんだ」
「でも、死んだんでしょ?」
「そう、死んだよ。交通事故で」
そう言って、勇者は少し寂しそうな目をした。
「やっぱり、死んだ時のこと覚えてるの?」
申し訳ないなとは思いつつも、光輝は聞いた。死んだ時のことなんて、覚えていていいことなんてない。まして、交通事故なんて、普通なら忘れたいだろう。
「覚えてる。と、言うより…思い出された?」
「なに、それ?どういうこと?」
光輝は勇者が話すことが上手く理解できなかった。
ラノベとかで、良く、呼んだのはなにかのきっかけで記憶が蘇る。とか、そんな展開だ。
「あー、うん。生まれた時は前世の記憶なんてなかったんだ。だけど、強制的に思い出さされた?」
勇者も、なんと説明したらいいのか、よく分からないらしい。
「だから、その…少し長い俺の話を聞いて欲しい」
光輝は黙って首を縦に振った。
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