第2話 召喚の思惑

「全く、何なのかしら」


儀式の間から控えの間に移動して、猫足の豪奢なソファーに腰かけて、不満を口にしたのは召喚の儀式を行った聖女だった。

優雅な仕草でカップを手にして、お茶を口にする。片手でかきあげる豪奢な金髪は腰まであった。肌はきめ細かく象牙の様に滑らかだ。

向かいあわせのソファーに座るのは、儀式に立ち会った剣士で大分難しい顔をしていた。


「使い物になるんですか?あの少年」


「魔力はめちゃくちゃあったわよ。私の何万倍もね」


そう言って、聖女はカップを乱暴にソーサーにおいた。ガチャンという乱暴な音が聞こえたが、戦士は聞こえないふりをした。聖女が、そんな音をたてるわけがないのだ。


「魔力を使いこなせるように訓練をさせないと」


聖女がそう言うと、控えていた魔道士が動いた。


「では、明日からでも?」


「そうしてちょうだい。使い物にならないなんて、私の恥だわ」


「かしこまりました」


魔道士は恭しく頭を下げると、退出して行った。

聖女は自分に従順な者には寛大だ。だからこそ、


「勇者のくせに、私の言うことをきかないのも問題だわ」


「たしか、あれの手にも紋章がありましたね」


「そうよ、あれも呼び出されたのだもの。転生と言う形ではあるけれどね」


こともなげに聖女は言うけれど、異世界の者をこの世界に連れ込むのは至難の業である。高い魔力とそれに伴う神の力が必要で、それを行える聖女は大変な実力の持ち主であると言えるのだ。

だがしかし、と戦士は思う。この聖女、少々調子に乗りすぎでは無いだろうか?魔族を討伐するのに、勇者を転生させただけでなく、魔道士を召喚するだなんて、やり過ぎとしか思えない。そこまでして魔族を討伐したいのか。


「そんなにまで、異世界の者は力があると?」


「そうよ、それに…」


聖女が赤い唇を開いて言った。


「失敗しても死ぬのは私たちじゃないでしょう?」

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