第2話
「お兄さん!久しぶり!」
そうにっこり微笑む少女がそう言ってきた。
「ごめんね?急に居なくなっちゃって…ちょっとお父さんと喧嘩しちゃってさ、来るの遅くなっちゃったのにゃ!」
そう『てへっ』っと言うように小さく舌を出しながら言う少女を見て思う。
「えっと、どちら様で…?」
流石に見覚えが無い。
同級生にしては若すぎるし、同い年には全然見えない。
歳は大体17…8歳ぐらいだろうか。
唯一知っているとすれば濡羽色の髪色ぐらい。この前拾った子猫の毛色と一緒だから。
そして俺の言葉を聞いた少女はぷく〜っと頬を膨らませた。
「え〜…!酷いにゃ!お兄さん!私と1夜過ごした中にゃのに!」
その言葉使いは少し変だったが…1夜を過ごした中!?
いやいやいや!俺は正真正銘の童貞!そんな過ちを侵した覚えはない。
「えっと…本当に覚えてないんだ。君みたいに綺麗な子なら忘れるはずは無いのに…」
「にゃっ!綺麗だなんて…にゃはは」
と、嬉しそうに体をくねらせる少女。
そして…
「まぁ、分からないのもしょうがないかにゃ。この姿を見せるのは初めてにゃし…」
そう言いその少女は改めて姿勢を直し…
「この前は助けてくれてありがとうございますにゃ。お兄さんが介抱してくれたおかげで命拾いしたにゃ…」
そう言い頭を下げてきた。
その際に律儀に両手を前に合わせていたのだが…目を引くものがあった。
「その手…」
そう、俺が手当した子猫と同じ位置に見覚えのある包帯が巻いてあったのだ。
「にゃ?これはお兄さんが手当してくれた時に巻いてくれたものにゃ」
そう言い少女は嬉しそうにその包帯をさすっているが…
「い、いや…それはありえないだろ…」
「にゃ?」
「だって、俺が助けたのは子猫で…君じゃ無いだろ?」
そうなのだ。いくら同じ場所に怪我があり、俺が介抱したって言っていたとしてもそれは子猫の話であり人間では無いのだ。
そして少女は少し考え…頷いた。
「にゃ。じゃあちょっと見てるにゃ…」
そう言い少女は目を瞑った。
そして1つ深く息を吸うと…
「…解除にゃ」
その言葉を紡いだ瞬間…彼女の頭から耳がぴょこんと飛び出し、腰からは9本の尻尾が現れた。
「改めまして…猫又族族長の娘として、改めて私のことを助けてくれてありがとうにゃ…お兄さん」
少女はそう言い初めの時と同じように微笑んでいるが…
「きゅ〜…」
俺はあまりのことで脳の処理が追いつかずそのまま気絶してしまった。
そして最後に見たのは慌てたように俺の事を抱きしめる少女の姿だった。
『にゃんにゃんにゃ〜ん♪』
俺は楽しそうに歌っている声で目が覚めた。
「…ここは?」
「にゃ、目が覚めたにゃ…?」
そう言い俺の顔を覗き込むように見てくる頭に耳を生やした少女。
「…夢じゃなかった」
「にゃはは。現実逃避は程々ににゃ、お兄さん。ありのままを受け入れるのにゃ」
「限界があるわ…ってか、なんで膝枕?」
「ダメだったかにゃ?」
と、こてんと首を傾げる少女。
「控えめに言って最高です。ありがとうございます」
「にゃはは。それは良かったにゃ」
そう言いまた楽しそうに歌う少女を見て思う。本当にこの子があの子猫なのかと…。
「なぁ、君の名前はなんて言うんだ?」
俺はそう、口にしていた。
「にゃ?私の名前は…」
と、少女は名前を口にしようとしたが…
「にゃ。お兄さんにつけて欲しいにゃ、私の名前」
「…え?」
「私のこの命はお兄さんが救ってくれたにゃ。だから、私のこの命はお兄さんの物だにゃ」
「それは飛躍が過ぎないか?」
「そんなことないにゃ。猫又族の掟第3項命を助けられたらその者に尽くせ。これが決まりだからにゃ〜」
「でも…」
「良いのにゃ。私はお兄さんに名前をつけて欲しい。…ダメかにゃ?」
俺はそれを聞いて思う。
この子は本気で言っていると。
「俺はネーミングセンスは無いぞ?」
「良いのにゃ」
「…じゃあ『きなこ』ってのはどうだ?」
「きなこ…確か私のこと1回そう読んだよにゃ?」
「あぁ、介抱してる時にな」
「ちなみに理由はあるのにゃ?」
「…君が、昔飼っていた猫に似てるから」
「…にゃはは。昔の猫と同じ名前とは…ちょっと妬けちゃうにゃ〜」
と、少しムッとしたように言う少女。
俺はそれ見て別の名前を考えようとするが…
「にゃ。今から私の名前は『きなこ』にゃ」
と言った。
「い、良いのか?」
「良いのにゃ。そしたらお兄さん…その名前を私の頭に触れながら呼んで欲しいのにゃ」
「…え?」
「良いから早くにゃ」
「お、おう…」
少女の強引な態度に俺は自分の体を起こし…少女の頭に手を置いて…
「…きなこ」
と、呼んだ。
「にゃ。私の名前は今から『きなこ』ここに契約を結ぶにゃ」
そう言った瞬間、一瞬少女の…きなこの体が発光した。
あまりの眩しさに目を瞑ったが特に何も起こらず俺は恐る恐る目を開けた。
「にゃはは!出来たにゃ!やったにゃ〜!」
俺が見たものはかなり喜んでいるきなこの姿だった。
「い、今のは…?」
と、俺が言った瞬間きなこは飛びつくように抱きついてきた。
「にゃはは!気にしちゃダメにゃ〜!」
「あ、おい…!」
「えへへ!これからよろしくにゃ!お兄さん!」
そう言いきなこは今日1番の笑顔を見せるのであった。
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