推しのためならば社長にだってなれる
武海 進
推しのためならば社長にだってなれる
皆さんはなんの為に働いていますか?家族の為、趣味の為にと色々な事情があるでしょう。
彼、本岡忠雄の場合は最もシンプルな理由である。そう、生活の為だ。
彼が大学を卒業して社会人になってからもう3年程経つ。社会人に成り立ての頃は彼にも夢があり、目標があった。
だが、務めた会社が悪かった。連日深夜にまで及ぶ残業ですっかり精神をすり減らしてしまい、夢や目標どころではなくなってしまった。
職場と家を往復するだけの生きた屍と成り果てた彼は、今日も日付が変わってから帰宅した。
疲労からベッドに倒れ込んだ彼は何となくテレビをつけた。そしてテレビを見た瞬間、彼の世界が変わったのだ。
テレビに映っていたのはよくある少女が怪物と戦うアニメだ。だが、彼はその主人公の少女に心奪われのだ。
その日から彼の人生は一変した。毎週金曜日放送のアニメが人生最大の楽しみになり、働きすぎで最早何も感じなくなっていた残業も、残業代で推しのグッズを買うことができると思うと寧ろ喜ぶべきものになった。
最初は推しに対する感情は可愛いだとか頑張れだとかごく普通だった彼も、どんどんのめり込んでいった結果、遂に推しを見るだけで尊いという感情を抱くようにまでになっていた。
しかし、彼の幸福な日々はそう長くは続かなかった。どんなアニメにだって1話があれば最終回がある。本岡の推しが主人公のアニメも例にもれず最終回を迎え、終わってしまった。
話の流れ的にはまだまだ続きそうな終わり方だったのだが、あまりヒットしなかったらしく、第二期が制作される望みはかなり薄いだろうという意見がネットで多く見られた。
本岡の落ち込み様は凄まじかった。推しに出会う前の感情の死んだ状態に戻るどころか突然泣き出したり、笑い出したりと情緒不安定になってしまった。
事情を知らない同僚達からは遂にブラックな労働環境で壊れたと陰で噂される始末だ。
そんな絶望の日々を過ごしてい本岡だったが、事情を知った同僚の何気ない一言が彼を生き返らせた。
「好きなアニメが終わってそんなに辛いんだったらさ、大金持ちになってお前がスポンサーになって続き作れば良いんじゃね」
本岡に推しに出会って以来の衝撃が走る。同僚の言う通り、ヒットしなかったせいでスポンサーが付かずに第二期が作られないのならば、自分がスポンサーになれるほどの大金持ちになって製作費を出せば良い。そうすれば尊き推しの勇姿を再見ることが出来る。
もう一度生きる意味を見出した彼は凄まじかった。仕事の傍ら、起業について猛勉強した彼は僅か2年で独立し、見事成功を収めたのだ。途中何度もくじけそうになったが、推しの為なら自然と頑張れたらしい。
そんな彼は今日も超高層マンションの自室に備え付けれたホームシアターで推しの勇姿を満足気に見ていた。
「はあ、今日もなんて尊いんだ。これでまた仕事を頑張れる」
ちなみにだが、少々勢い余った彼のおかげで多額の予算で作られた第二期は毎週毎週劇場版並みのクオリティーで制作され、大ヒット。劇場版の制作も決定し、スポンサーの本岡も儲けるつもりは一切なかったのに大儲けしたらしい。
推しのためならば社長にだってなれる 武海 進 @shin_takeumi
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