第2話 目に見えぬ世界
病院での点滴を終え、教職員住宅に帰宅した
慧理が見るようになったのがいつ頃かは、はっきりとは分からない。物心ついた頃には不思議なものが見えたり聞こえたりしていた気がする。
寝ていて夜中にふと目が覚めると宙に浮いていて、布団で寝ている自分が見えたこともあったが、きっと夢だったに違いないと思った。夜間に寝ていて金縛りにあうなどは頻繁で、慧理の母親も同じ体質 (霊質?)らしかった。
金縛りとは
一番恐怖を感じたのは、石の上を
全身に力が入り、不意に解けても恐怖は消えず、鼓動も早いまま。
慧理が読んだのは真言密教に関する数冊の入門書だったが、そこで出会った“不動明王の真言”には確かに効果があった。
金縛りの最中は声も出せないので、心の中で必死に唱えることしか出来ないのだが、それでも、唱えた途端にすうっと金縛りは解け、以前のように長い時間を苦しむことは無くなった。真言の力なのか、それとも、単に自己暗示によるものなのか。
赴任後の教職員住宅で最初に見た霊は、庭から空を眺めた瞬間だった。白い着物を着た女性がふわっと目の前を
悪霊ではなく、守護霊のようなものだったのかもしれない。土地の守護霊なのか、慧理を守るものなのかは分からないが。普通なら目に見えないはずが、何かの拍子にふと波長が合ってしまったのだろう。
拝み屋に見てもらったことは慧理自身は無いが、母親は見てもらったらしい。
その時に言われたそうだ。
「あんたは苦労は多いじゃろうけど、観音様がのさっちょるから悪い事にはならん」
母は、自分が見てもらう為に拝み屋を訪れた訳ではなく、付き添いで行ったのだ。親戚の家で何年も続けて不幸が続き、つまり、4年で4人が亡くなり、6人家族が2人だけになったので。
拝み屋の答えは、“家の敷地の隅に無縁仏があるから、それを丁寧に祀れば不幸は止まる” だった。
そして、その家の住人も驚いたことに、拝み屋の言った場所に古びて目立たない無縁墓地が草木に隠れて見つかったのだ。その家では拝み屋の進言に従って不幸は止まったのだが、その際に同行していた母に拝み屋が言葉を掛けたのだと言う。
霊魂の存在や拝み屋など信じない者もいるだろう。実際にまやかし物やインチキも多いと聞くが、科学的に証明されないからと言って否定されるべきではないと慧理は思っている。
見えない物は存在しないと考えるのは正しくはない。電波や音波や磁気や、目には見えないけれど科学的に存在するものがあるし、色や音などは人によって見える波長に違いがある。人間には聞こえないけれど他の動物には聞こえる音も沢山ある。人間が知らない事はまだ沢山あるに違いないし、この世界の全てが科学で証明できるわけでもないだろう。
霊など眉唾と思えるような話を慧理は軽くは考えないし、心霊スポットなどに面白半分に行くべきではないと思っている。
だから、自ら心霊スポットのような場所に行くことは一度も無かったのだが、まさか、赴任した県立
玄関の階段前に感じたのは、まさに恐怖だった。目には見えなかったが、そこに居ることは分かった。
そして、或る日、仕事を終えて帰宅し、夜も更けてから風呂を沸かして入浴しようとして感じたのは、壁の向こうの隣の住宅に居る霊の気配。
恐ろしかったが、堪えながら入浴した。気のせいに違いないと考えたのだ。壁の向こうに居るモノを感じられる筈が無いと。それが、まさか本当に壁の向こうに居たなんて、今日の職員室での話が、まだ信じられない気がした。
いや違う。やはりそうだったか、という気持ちの方が強い。
翌日、慧理は3時間目に2年1組のテスト監督に割り当てられていた。
テスト開始10分前に問題用紙の封筒を取りに行き、そのまま2年1組の教室に行く。生徒達は教室には教科書類を持ち込めない為、廊下に立ったまま教科書やノートを見直したり、互いに問題を出し合ったりしている。
テスト監督の慧理の姿を見て、すぐに教室の席に戻る生徒も居るが、チャイムが鳴るまで最後の足掻きをやめない生徒も居る。
問題用紙を配布し、テストが始まって間もなくだった。それが起こったのは。
(続く)
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