先輩と後輩くんと尊い話

ジュオミシキ

第1話

「後輩くん、君は“尊い”というものを知っているかい?」

「たっとい?それって“とうとい”とは違うんですか」

「まあ、違うとも言えるし同じとも言える。君はどちらが聞き馴染みがあるんだい?」

「“とうとい”ですかね、褒め言葉としてネットなんかでもよく使われてますし。ほら、あのキャラが尊いとか。それがどうかしたんですか?」

「ああ、実は先日『尊いストーリーを募集します』という張り紙を見たんだよ。それが少しばかり気になってね」

「尊いストーリーですか?なんともざっくりしてますね。先輩は何か応募するんですか?」

「いや、特に考えてはいなかったんだ。けれど君と話してみて興味が湧いてきてね。君は何かそういうのに詳しいのかい?」

「僕もあんまりですね。でもたしか、尊い話って恋愛物に多かった気がします」

「そうか、恋愛……」

「例えばの話ですよ。別にそれだけじゃなくてもいろんな尊さがあると思いますし。それぞれが尊いと率直に思えるものでいいんじゃないですかね」

「君は何かないのかい?尊い事」

「僕ですか? 尊い……、尊い……。う〜ん、今すぐにと言われてもパッとは思い当たりませんね」

「そ、その尊いというのは恋愛なんかに多いんだろう?ほら、何かないかい?」

「む〜……。と言われましても……」

「まったく、君は鈍いところがあるから困るんだ」

「僕のどこが鈍いというんですか。少なくとも先輩よりは運動できる自信はありますよ」

「そういうところだと言っているんだよ。はぁ……」

「まるで僕が先輩の気持ちになかなか気づいてないからどうにもヤキモキしてしょうがない、みたいにため息ついてどうしたんですか」

「そこまで分かってどうして私にこんな仕打ちをするの!?……つまるところ、私はね、君と尊いことをしたいなって思ったんだよ。恋人として、君が私に魅力を感じてくれるようなことができればなと……」

「……」

「ちょ、ちょっと何か言ってくれよ後輩くん。私だってこんなはっきり言うつもりはなかったんだからね?そう、もっとふんわりオブラートに包んでだね、」

「先輩」

「なっ、なにかな」

「僕、先輩のこと好きですよ」

「ぎ!? あ、あの、君はいきなり何を言い出すんだい!……そりゃあ私だって好きだけど」

「ありがとうございます、嬉しいです」

「そ、それでも、なんだって急にそんなことを言い出すんだい。そんなの滅多に言わないじゃないか。……私も言ってなかったかもしれないけれど…」

「だって先輩、寂しそうだったじゃないですか」

「え?」

「そりゃあ僕だってはっきり伝えるのは照れもありますし、なかなか言いにくいですけど、ちゃんと伝えないと伝わらないこともありますから。尊いものか分かりませんが僕たちは僕たちなりに、出来ることを、やりたいことを、一緒にやっていきたいなって。 そういうわけで、まず最初は伝える所からだなって思いまして。……ダメでした?」

「……君は、本当に鈍い」

「すいません」

「そうかと思えば、一番大事な物を、一番欲しい時にくれる」

「はい」

「私は、」

「先輩も、一番大切な事を、一番嬉しい時に教えてくれます」

「そうかな?」

「はい、そうですよ」

「だったら、私も嬉しいな」

「やって笑ってくれましたね。まあ、ちょっと涙が邪魔ですけど」

「君はいつも一言多いんだよなあ」

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