第160話 彼女と兄弟との楽しい? ティータイム

「いらっしゃいませ! プリンセス!」


 と、下げていた頭を上げて廉が笑った。かわいい! かわいいけど、ホスト感消せっつったろーが! スーツの男がズラリと並んでお出迎えしてるだけでもうホストクラブ感出てんだよ! 本物が過半数いるだけにリアリティ出てんだよ!


 高身長のイケメン3人、超美形ひとり、超かわいいちびっ子ひとりが並んだ迫力に俺までのまれて何も言えねえ。フォローのしようが分からねえ!


「いらっしゃい、比嘉さん。男ばっかでむさ苦しくてごめんね。俺は統基の兄の亮河です」


 と笑顔で亮河が大人の男なあいさつをしてくれる。やっぱり頼れるな、亮河は! だがしかし、問題はこの後だ。


 叶が俺のシャツのすそをつかみながら固い笑顔で会釈を返す。


「すっげー美人! マジで高校生の初恋なんかピュアさゼロだな。とんでもねー面食いだから高校生まで初恋しなかっただけじゃねーかよ。俺、慶斗! よろしくー」


「かっわいいー。大人っぽくて女子高生には見えねえなー。統基と並ぶと統基のガキっぽさが際立つわー。おもしれー。あ、俺悠真ですー。よろしくー」


「統基と並ぶとまさに月とスッポンだな。いや、月どころじゃねえか。君は夜空に浮かぶ星々よりも今まさにさんさんと輝いている太陽よりも美しいよ。俺、孝寿。よろしくー」


 同時にしゃべり始めて同時にしゃべり終わるんじゃねえ、兄貴ども! よろしくーだけが奇跡的にハモってたわ。誰が何言ってんのか分かんねーが、全員が全員俺をディスってたのは分かる!


「あ! スルメイカの時の線香花火のお姉ちゃんだ。僕会ったことあったよ、お兄ちゃん」


「ああ、そういえばそうだな。廉は会ったことあるか。てか、叶とスルメイカや線香花火をセットで覚えてんじゃねえ」


 何かの記憶術で連鎖的に覚えると効果的、って見たことあるが叶とそんなもんを連鎖させてんじゃねえ。てか廉、そんな覚え方で驚異の記憶力だったんかい。


 すっかり委縮してしまっている叶の肩に手を置いてリラックスを促す。


「この人が比嘉 叶さん。で、クソ兄貴たちと弟の廉」

 

「紹介が雑すぎるだろ!」


「いーんだよ! どうせ叶の頭で4人も名前覚えられねーんだから!」


「たしかに、覚えられる気がしないわ」


 だろーな。


「比嘉さん、ベイクドチーズケーキ好き? 良かったらみんなで食べない?」


「あ、ありがとうございます。好きです」


 叶はけっこうスイーツ好きだ。亮河の提案にうれしそうに笑った。


「上がっておいでよ! はい、お手をどうぞ、お嬢様」


 と差し出された慶斗の手に右手を載せて、左手でサンダルのホックを外して脱いで玄関に上がる。なるほど、気配りができてるな。さすが腐ってもホスト。


 そして叶が脱いだサンダルを悠真がササッとそろえる。さすが下っ端な素晴らしい仕事ぶりだ。


「本当に統基なんかで満足してるの? 俺にしとかない?」


「いきなり口説いてんじゃねーよ、孝寿! コイツこう見えて奥さんと子供いるからな! だまされんなよ、叶!」


「え?! お子さんいるんですか? 見えないですね」


 叶が口元に手をやり驚いている。


「お姉ちゃん、ケーキ食べたら一緒にゲームしようよ! 僕強いんだよ!」


「お姉ちゃん?! かわいいー」


 ひとりっ子の叶にお姉ちゃん呼びは刺さったようだ。目を細めてうれしそうに廉を見る。やっぱりお前に一番期待して正解だった、廉!


「ええー、ゲームかよー」


 ゲームは苦手な孝寿はぶーたれてるが、安心しろ、おそらく叶はゲームも超ド下手だ。


 玄関エントランスから廊下を歩きリビングに入る。入って右手のダイニングスペースのデカいテーブルの真ん中の椅子を慶斗が引いて叶を座らせる。


「あ、ありがとうございます」


「はい、比嘉さん、ケーキどうぞ」


「紅茶淹れるけど、ミルクティーでいい? 砂糖は?」


「あ、はい。多めでお願いします」


「俺隣の席取ったー」


 孝寿はやっぱり油断ならねーな。てゆーか、全員で叶に構うもんだから叶が困ってるじゃん。


 亮河がケーキの用意、悠真が紅茶を淹れるためにキッチンへ行き、亮河は叶の前の席に座った。孝寿の隣に座って妨害に全力を出す方がいいのか、空いてるもうひとつの叶の隣に座った方がいいのか。せっかくだから叶の隣に座ろう。


「全員の相手しなくていいから、叶。お前は俺だけを見ていればいいんだから」


「くっせーこと言ってんじゃねーよ! 笑い飛ばしていいからねー、叶ー」


「人の彼女呼び捨てしてんじゃねーよ! 会ってそっこーで!」


「いいじゃん。弟の彼女は俺の彼女。ねー、叶ー」


「ちげーわ! じゃあ何か、お前の嫁は俺の嫁なのか」


「何バカ丸出しなこと言ってんだよ、バーカ」


「お前が先にバカ丸出しなことを言ったんだよ、このバーカ!」


「こらこら、お客さんをはさんでケンカすんじゃねーよ。比嘉さんが困ってんじゃねーか。ごめんね、比嘉さん。このふたりしょっちゅうケンカしてるからさー」


 さっきから叶は俺と孝寿を交互に見て苦笑いを浮かべながら何も言えずにいた。あ、ごめん叶。


 亮河が仲裁しながらケーキを運んでくれる。


「お! うまそー!」


 孝寿がやっと叶から目を離してケーキを見た。ふう、と叶が息をつくのが聞こえる。さすがにこの美形に一瞬たりとも目を離さず見つめられるのは疲れたようだ。


「あ! 孝寿お兄ちゃんずるい!」


 廉が指を差すから孝寿の前にある皿を見ると、ケーキがふたつも載っている。俺はひとつで十分だけどな。


「大丈夫、廉の分もふたつあるから」


 亮河が廉の前にも皿を置く。廉の顔がパッと明るくなった。単純だな、この食いしん坊は。


「いただきまーす」


 と全員で手を合わせてケーキを食う。おー、うまい! 上品で高級なくちどけ。


「すごくおいしいです!」


「マジうまいな、これ」


「ほんとだ、超うまい。帰りに家に土産に買って行こう」


「俺んちの分も買ってよ、亮河兄ちゃん。俺、金ねーからこんな高そうなケーキなんて買えないよ」


「しょうがないな、孝寿は。帰りに一緒に買いに行くか。ついでに車で送ってってやるよ」


「ありがとう! お兄ちゃん!」


 今日は酒飲まねえんだと思ったら車だったのか。急遽集まったから、亮河が迎えに行ってたのかな。


 叶が一転して弟感満載で亮河に甘える孝寿を驚いた顔で見ている。そいつ、アメとムチの使い手だから気にすんな。そのうち慣れる。

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