第133話 たまにしか会わない赤ちゃんの成長には驚かされる

「充里……バイト代わってくれ」


「またかよ! 統基はいつも急過ぎる! もー、曽羽ちゃんも一緒にバイトできねーか店長に掛け合ってみよかな。曽羽ちゃん、俺と時給半分こしてバイトしよー」


「うん、いいよー」


 時給半分こて何なんだ。自由過ぎるだろ、自由人。あの店長なら笑って許してくれそうだけれども。


 バイトは充里に任せて、俺はもちろん、比嘉家へ乗り込む!


 あ、スマホに通知だ。

 孝寿か……すぐに帰って来いって何なんだ。南紗もいるなら帰るけど。お、南紗も来てる!


「叶、パパ何時に帰って来るんだっけ?」


「8時半よ」


「俺、一旦帰って8時半に叶ん家に行くから」


「うん……何なのかしら、急に転勤だなんて」


 叶はどちらかと言うと、パパが何かやらかしたんじゃないかって方向に心配してるみたいだ。


 校門を出て叶と別れ、家へと急ぐ。


 玄関から家に入ると、孝寿と廉が何やら言い合いをしてるっぽい? どうしたってんだ。おやつの取り合いだろーか。


 リビングの手前を南紗がヨチヨチと歩いている。


「南紗! 歩けるようになったの?!」


 びっくりした! 前に見た時と体の大きさはさほど変わっていないのに、南紗が歩いてる!


 南紗が笑いながら歩いて来て、俺の足におなかをぶつけるようにしがみついた。かわいい! 体の大きさは大差ないけど、前もかわいかったのにかわいさは更に増している! 赤ちゃんの成長ってすごい!


 南紗を抱き上げてリビングに入る。


「そんなの関係ないよ! 孝寿お兄ちゃんが何て言っても僕は引かない!」


「絶対に許さねえ! ガキが何言ってんだ!」


 すげー白熱した言い合い。ふたりとも本気の顔してるけど、何をもめてるんだろーか。


「どした?」


「廉が将来南紗と結婚するって言うんだ!」


「は? 廉が結婚?」


「僕は絶対、大人になったら南紗ちゃんと結婚する!」


 おー、微笑ましいじゃん。幼稚園児が約束するやつな。そして、大人になる頃にはすっかり忘れてるやつな。


「孝寿兄ちゃん、まさかそれで呼びつけたんじゃねーだろーな」


「そーだよ! 叔父だぞ、廉! 親戚同士で結婚って、非常識かよ!」


「血の繋がりはないから問題ない!」


「血が繋がってねーのを逆手に取るんじゃねえ!」


 ちょっと待て、孝寿。


「孝寿兄ちゃん、親戚のお姉さんと結婚したんじゃなかったっけ?」


「血は繋がってない遠い親戚だから問題ない! だいたい、南紗はまだ1歳だぞ! 年の差があり過ぎる!」


「10歳違いくらい、大人になれば関係ない!」


 いや、だから待て、孝寿。


「孝寿兄ちゃん、奥さんだいぶ年上じゃなかったっけ?」


「だいぶじゃねーよ! 8コしか上じゃねえ!」


「変わんねーよ! 10コも8コも変わんねーよ!」


「全然違う!」


「違うのは主観か客観かだ! 客観的には変わらん!」


 あの冷徹人間な孝寿が南紗のことになるとこうも自分が見えなくなるのか。


「パパ、バカだねー」


 抱っこしてる南紗に笑いながら言うと、


「ばーだー」


 と笑いながら何やら返してくれる。何この声? まさに天使! かっわいいー!


「変な言葉を教えるんじゃねえ! 統基! あー、ヤダヤダ、南紗の結婚なんか考えたくもない!」


「んな目くじら立てんなよー。小学生の言うことじゃん。かわいいもんじゃねーか。ねー、南紗ー」


「なしゃー」


「お! 上手に名前言えたな、南紗! 聞いた? 孝寿兄ちゃん!」


「聞いた! すごいな、南紗ー。もうなんか、最近成長著しくてさ、あっという間に大人になっちゃいそうで寂しくなるくらいなんだよなー」


「あはは! バッカじゃねーの、親バカ! こんな赤ん坊が一瞬で大人になる訳ねーじゃん。パパやっぱりバカだねー」


「ねー」


 なるほど、さっきから俺の言うことをマネしてんのか。かわいいなー。


「お前、今言ったこと覚えておけよ。数年後父親になった時に俺と同じこと言い出したらブーメラン返してやるからな」


「俺は親バカになんかならねえ。はたから見たらどう見えるか孝寿兄ちゃんのおかげでよく分かってるから」


 南紗も一緒に亮河が用意してくれていた早めの晩メシを食う。前は孝寿が食べさせてたけど、今はひとりで手づかみと変な形したスプーンを使って食べている。


「すげーな、ひとりで食えるようになったんだ」


「むしろ今は食べさせられるのを嫌がるんだよ。もう私はひとりで食べられるんだからほっておいて、って言われてる気分だよ」


「親離れの始まりかー」


「絶対に離れねえけどな」


 孝寿も過保護な親になりそうだな。2人目が生まれたら分散されてちょうどよくなるのかな。


「あ、俺これからまた出かける」


「夜遊びかー。高校生がー」


「遊びじゃない。合戦だ!」


 俺は何としても叶をブルックボンドなんぞに行かさねえ! 一応、事情くらいは聞こうかと思っているが、内容に関わらず俺の意思は決まっている!


 俺を彼氏として認めてくれたようなことを言ってたのに、何なんだよ、この手のひら返しは! 納得できねえ!

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