第132話 ロミジュリ≠王道ラブストーリー

 ロミオとジュリエット、この詳しい内容は知らんが超有名なラブストーリーで、あかねと長谷川をくっつける!


 そうすれば、この叶に思いを寄せまくる長谷川を叶のそばから排除できるってもんだ!


「じゃあ、次ー。ってこれほぼ決まりだよな。比嘉ジュリのロミオは統基なんだろ?」


「当然!」


「で、実来ジュリのロミオは」


「俺! この佐伯が演じる!」


「えー、佐伯ヤダー。行村がいいー」


 てか、普通に実来は行村が好きなんじゃねーのか?


「俺、事務所通してもらわねーと出ていいのか分かんねえんだ」


 何芸能人気取りしてやがる。高校文化祭の教室で劇やるだけで事務所の許可が必要な訳ねーだろ。


「でもさ実来、行村結構ガチ恋のファン多いから変な恨み買うかもしれないじゃん。佐伯の方が安全なんじゃない?」


 へー、ゆーても実来の心配したりするんだ。女ゴリラ友姫。


「えー、でも普通に佐伯ってロミオ感なくない? なんかかわいいしさー」


「よし、佐伯と実来は子供向けかわいいロミジュリでいこう。シェイクスピアをかみ砕いてお子様たちにも分かりやすく伝わるようにアレンジしよう」


 マザゴリはまた佐伯の恋が成就するように何かたくらんでやがるな。どうせゴリラの知能で考えるようなことだ。肝試しで男らしさを見せる作戦は失敗だったから、今度は佐伯の持ち味であるかわいさを更にアピールする作戦とかだろ。


 曽羽が黒板にデカデカと実来・佐伯 子供向けと書いた。


「そうなると、比嘉・統基ペアは何向けでいくんだ?」


 え? 何か変なコンセプトが続いたもんだから、俺らまで色物ロミジュリにされる?


「いや、ひと組くらいは王道ロミジュリがあった方がいいだろう。俺たちは原作に忠実でいこう」


「それもそうか」


 よし、いい感じに落ち着いた。王道のラブストーリー、ロミオとジュリエットで俺と叶は作りもんのラブストーリーの更なるその先へ行かせてもらう!


 ――と、思いきや。


「何コレ?! 最後ふたりとも死んで終わるんだけど?!」


 検索してみてびっくりだ。


 ロミオとジュリエットとは、例えばチャラいホスト一家の入谷家と真面目で過保護な比嘉家は長らく対立していた。


 だが、入谷家の俺、統基と比嘉家の叶は出会ってたちまち恋に落ちる。現実には俺だけだったがとにかくロミジュリのふたりは恋に落ちた。


 だがしかし、争いに巻き込まれた俺は人を殺してしまい、追放される。


 俺のために仮死状態になる薬を飲んだ叶を本当に死んだと思った俺は自殺し、叶も俺の後を追って――って、なんちゅーラブストーリーじゃい!


「子供向けの話はこの悲恋のままじゃダメだよな。ハッピーエンドに変えよう」


「関西弁のコント仕立てもこのあらすじじゃ笑えないから変えるしかねえな」


「統基たちはこのままいくとして」


「こんなもん、文化祭の出し物にできるか! ハッピーエンドに変えろ! 文化祭でご遺体を拝ませてんじゃねえ!」


「入谷が王道でいく言うたんやん」


「俺は王道のハッピーエンドのラブストーリーでいくって言っただけだ! シェイクスピアのロミジュリまんまでいくとは言ってねえ!」


 完全にシェイクスピアのロミジュリまんまでいくつもりだったけどな! こんなポコポコ人死ぬなんて思いもしねーから!


「誰がそんな3パターンもの脚本書くんだよ」


「決まってんだろ。マザゴリ、お前だよ」


「は?! なんで俺?!」


「お前、想像力豊からしいじゃん。お前ならできんだろ? ロマンチックな王道ラブストーリー書けるだろ? できねーとか言えると思ってる?」


「入谷……お前、俺をそんなできるヤツだと思ってくれてたのか?」


「当たり前だろ? 俺は信用してるヤツしかなじらない」


「入谷……分かった、俺やる! 世界一のラブストーリーを目指す!」


「本気出すのは俺らの脚本だけでいいから。他のはそれぞれの特色が出るように適当に工夫してやってくれ。佐伯と、長谷川のために」


 長谷川は一切あかねのことを好きではないが。


「お前、いいヤツだったんだな」


「ふっ、何言ってんだよバカ」


 マジでバカだなコイツ。どんだけ雰囲気だけで生きてんだ。


 曽羽が黒板に比嘉・入谷 王道、脚本 仲野とデカデカと書いた。


「高梨、だいたい決まった」


 と自分の机でスマホをいじる高梨に声をかけると、


「おお」


 と返事しながら更にスマホを見続けて、蹴ってやろうかなと思ったところで黒板を見た。


「え、比嘉?」


「何だよ、適役だろ。美しいジュリエットさ」


「ヤダもう、恥ずかしい!」


「比嘉は文化祭当日にはいねえぞ。ブルックリンに行ってる」


 高梨が黒板を見ながらサラッと意味不なことを言う。


「ブルック……音楽家?」


「骨じゃねえ。ニューヨークの都市だよ。物知らねーな、お前らは」


「ニューヨーク……アメリカ?」


「そうそう」


「そうそう?!」


 叶を見ると、言葉もなく呆然としている。叶は恐らく何も知らないな。


「どういうことだよ? なんで叶がブルックボンドに?」


「ブルックリンな。比嘉のお父さんが転勤されるそうだ。1年の予定だから、休学して卒業できるか相談にいらした」


「転勤……休学?!」


 さすがに俺も呆然だ。1年も、叶は学校を休んでブルックボンドに行くって言うのか?!

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